遺伝子組み換え大豆の農薬空中散布を止めた母親たち

ノーベル環境賞とも言われるゴールドマン環境賞をアルゼンチンで遺伝子組み換え大豆の農薬散布を止めた母親たちの運動のリーダーのソフィア・ガティカ(Sofia Gatica)さんが受賞した。

この賞は権威あるもの。賞のことより、Sofiaさんの活動のすばらしさに感動を覚えた。単に個人的に感動を覚えるだけでなく、彼女の活動は放射能汚染を抱える日本の多くの人にとってもインスピレーションを与えるに違いないと思う。
Sofia Gaticaさん

彼女の取り組みについては詳しくは短いビデオが作られていてとてもいい出来なので、それを見るのが一番だが、英語なので、ごく簡単にその概要を書いておく(ビデオは末尾に日本語字幕をつけたものを載せてある。3分32秒)。

アルゼンチンは1990年代後半から急激に遺伝子組み換え大豆の生産が拡大し、現在は世界第3位。しかし、その生産方法は広大な土地に大豆だけを植えて、飛行機から農薬を散布するというものだ。この農薬が毒性が高いモンサントの開発したラウンドアップ。
農薬空中散布

ソフィアさんは生まれてすぐの娘をこの農薬によって失った。その娘の死が受け入れられなかったソフィアさんは近くの母親たちを訪ね歩き、農薬の影響を懸念する母親たちを組織して、近所で発生しているガンなどの病気を調べ上げ、地図にまとめた。彼女たちの調査でわかったことは近所のガン発生率は全国レベルの41倍という高さだということだった(下の地図の赤い丸がガン患者)。
近所の病気の地図

母親たちは農薬空中散布ストップキャンペーンを始めた。コミュニティの人たちに農薬の危険を知らせた。
農薬の危険を知らせるセミナーを開く
しかし、その後ソフィアさんは電話で「子どもを殺すぞ」という脅迫を受けるようになり、ある男に銃を頭につきつけられて「大豆と関わるのはやめろ」と脅された。「でも私は止まるわけにはいかなかった」
「ここで起きているのは隠された大量虐殺。ゆっくり、そして秘かに毒を流す」
農薬に苦しむ住民
10年にわたる彼女たちの活動はついに大統領を動かし、農薬の影響調査を保健省に命じた。

ソフィアさんは大学の研究者(Andres Carrasco氏)とも連携して、農薬が出生異常をもたらすことを確認した。
Andres Carrasco博士とSofiaさん
この活動の結果、住民の居住地2500メートルの範囲の農薬空中散布は禁止されることになった。母親たちは全国中の農薬空中散布を禁止することを求めてさらに活動している。

アルゼンチンの農場の6割が大豆になっている。いわば大豆ブームの中でそれに対する闘いがどれほど困難なものか想像してみる。国中が熱中しているものにノーを突きつけるということはそう簡単なことではない。最近でもアルゼンチンで農薬汚染された地下水は塩水と同じだと御用学者が言ったとか。日本の放射能汚染で聞いたような台詞だが、そういう手のものは地球の裏でもごまんといるのだろう。

実際に殺害予告もあった。大農場主が法であり裁判官であるような南米において、その大農場主を敵にするということの怖さはなかなか表現するのが難しいと思う。

しかし、彼女は負けなかった。娘の無念を晴らすということ、そして今心配を抱えているお母さんたちとの連帯がそれを可能にしたのかもしれない。

彼女の闘いは極めて冷静で理詰めであったことは特筆できる。まず実態調査を行い、さらに信頼できるAndres Carrasco博士と動くことで有効な情報を国に突きつけることができた。Andres Carrasco博士はアルゼンチンでの農薬問題が大きな人権問題であることを証明した中心的な科学者である。

今、放射能汚染にまみれる日本、医療機関は情報を隠蔽し、放射能の被害は隠されている。そんな日本においても彼女の闘いはインスピレーションを与えずにはいないだろう。

ビデオはわずか3分32秒。ぜひ見てほしい(日本語字幕つけました)。


このビデオは2012年4月18日に「小農民の闘い国際デー」(勉強会)で南米で起きている遺伝子組み換え大豆による被害の1つとして紹介した。この勉強会の報告も読んでいただければ幸い →小農民の闘い国際デー 日本とのつながりを考える



このソフィアさんたちの作った地図(町の農薬噴霧と関連がありうる病人の存在を記した地図)の詳細が見たいと思って検索していたら見つけた。

地図には白血病、ガン、ガンでなくなった、肝炎自己免疫症などのマークがある。実に痛々しい地図だ。遺伝子組み換え大豆に囲まれた小さな町に異常な病の発生。同様のことは南米の他の地域でも発生しているはずだが、なかなかこうした情報は出てこない。それだけにソフィアさんたちの奮闘の持つ意義ははかりしれない。

モンサント、不当なロイヤルティの徴収に対する違法判決下る!

モンサントはアルゼンチンの経済混乱につけ込んで入り込み、ブラジルやパラグアイなど遺伝子組み換えを認めていない国にも強引に入り込んで、わずか数年のうちに南米を遺伝子組み換えの国にしてしまった(モンサント、ブラジルの遺伝子組み換え大豆「開国」の手口 日刊ベリタ参照)

圧倒的多数の市民が反対しているにも関わらず、民主的プロセスを経ることなく、遺伝子組み換えは強引に合法化されたのだった。合法化以降はモンサントや他の遺伝子組み換え企業は政府に圧力をかけ、よりいっそうの遺伝子組み換え種の承認を計っている。この間にブラジルは世界一位の農薬使用国になってしまった。

モンサントのビジネスモデルは種子の供給を独占し、非遺伝子組み換え種子を可能な限り排除し、種子と農薬をセットで売りつけ、農業生産を支配し、独占的な利益を得るというものだ。モンサントの開発した種子から出た花粉で汚染された有機農家が被害を受けたにも関わらず、勝手にモンサントの種子を盗んだとして訴えられ、莫大な訴訟費用の前に廃業に追い込まれるケースが報告されているが、モンサントはその開発した種子の特許、知的所有権を武器に広大な地域に影響力を急速に及ぼすようになった(もっともその影響を与えている地域は世界全体で見るとわずか1割程度であり、南北米大陸にそれは集中している)。

しかし、そのビジネスモデルを正面から否定する判決が南米の遺伝子組み換え王国のブラジルで下った。

モンサントの遺伝子組み換え大豆のロイヤルティ、技術料、補償金の徴収を違法として、その徴収を禁止するというものだ。さらに本格的に(非合法下に)耕作が始まった2003年からの課金の返却までをも命じるものであり、モンサントのビジネスモデルを揺るがす内容を持っている。

ブラジルでは2003年以来、左派の労働者党政権が成立したが、農村地域においては大土地所有者の政治力は依然として強く、ルラ政権は大土地所有者への譲歩を続けた。世界的にも土地所有に極端な不平等のあるブラジルでは農地改革は長く社会の大きな課題であった。しかし、モンサントの登場と共に逆農地改革ともいうべき、土地を貧しい農民に分配するのではなく、大土地所有者への土地のさらなる集中が起きた。

多国籍アグリビジネスとブラジルの大土地所有者との連携の下、遺伝子組み換え大豆の生産は飛躍的に伸びた。しかし、同時に大豆生産農家とモンサントの間に不協和音も聞こえるようになってきた。今回の訴訟はその不協和音が確定的なまでに大きなものになっていることを物語っているように思える。

モンサントの政治力は未だに健在と思われる。この判決はすぐに覆される可能性は高いだろう。しかし、この遺伝子組み換え王国、米国につぐモンサント王国と思われたブラジルにこのような判決が出たことの意味は決して消すことはできないと思われる。

以下はブラジルでの記事の抄訳である。(Justiça condena Monsanto por cobrança indevida de royalties 裁判所、モンサントの不当なロイヤルティの請求に有罪判決

モンサント、遺伝子組み換え種子の特許料の徴収に違法判決下る!

ポルトアレグレ ポルトアレグレ地区第15民事法廷のジョバンニ・コンチ判事はモンサントによる遺伝子組み換え大豆へのロイヤルティを課すことを違法として、即刻停止することを命じた。この決定はパッソ・フンド地方組合、セルトン地方組合、サンチアゴ地方組合、ジルア地方組合、アーボレジンニャ地方組合、リオグランジドスル州農業労働者連合(FETAG)によるブラジル・モンサント社およびモンサント・テクノロジー社に対する集団訴訟に応じるものである。

4月4日に発表されたその決定において、小、中、大規模の大豆農家が2012年9月1日からロイヤルティ、技術料を払ったり、補償金を払うことなく、遺伝子組み換え大豆を保存し、再び畑に植え、その収穫物を食料として、あるいは原料として売る権利があることを判事は認めた。コンチはまた2010年9月1日から遺伝子組み換えを育てる生産者が他の小農民たちに保存してある種を譲ったり、交換したりする権利を認めた。

それだけでなく、2003年/2004年収穫から遺伝子組み換え大豆の売買に対してロイヤルティ、技術料、補償金をモンサントが課すことを禁止した。また判事は2003年/2004年収穫から遺伝子組み換え大豆生産へのモンサントによる課金を市場総合物価指数で補正し、月1%の利子を加えた上に返還するよう命令した。

ジョバンニ・コンチは日ごとに100万レアルの罰金支払いを条件に、ロイヤルティ、技術料、補償金請求の即刻禁止の差し止めを認めた。また両社は50万レアルの訴訟費用の全額の支払いを命じられた。