食料システムを乗っ取ろうとするのは誰か?

 今、世界で多国籍企業による食料システムの乗っ取りが進行しつつある。そして国連までもがそれに使われようとしている。一体、何が起きているのか、具体的に見てみよう。

 モンサント(現バイエル)はクライメート社(The Climate Corporation)を買収した(2014年モンサントに吸収)。この会社はClimate FieldViewというサービスを提供するが、これは農地の栽培情報をデジタル化し、クラウドで管理するシステムである(1)。農家がこれを採用すれば、どんな種子をいつ撒き、化学肥料、農薬をいつ、農地のどの部分に、どれだけ使えばいいか、アプリから情報が得られ、種蒔きから農薬散布、収穫までリアルタイムでモニターできる。作物の病気は人工衛星で監視し、事前に対策も可能になる。農家にとっては便利、に見えるが、農家に売られる種子や農薬はもちろん、バイエルあるいは提携企業の商品。そしてその作物の成育状況は世界中からバイエルに集められる(すでに米国、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、ヨーロッパの2400万ヘクタールの情報が集積されているという)。マイクロソフトもClimate Edgeを買収し、同様のサービスを提供する(2)。
 
 種蒔きから栽培管理、収穫前の情報から収穫まで世界の情報は数社が独占し、その独占データを元に流通も仕切ることができて、利益を最大化できる。金融企業や穀物メジャー、流通企業が一体化する理由も見えてくる。実に合理的。しかし、それはわずかな企業にとっての合理性にすぎないが。
 かつての農民が闘う相手は遺伝子組み換え企業にせいぜい穀物商社、食品加工企業くらいだったが、これにAI、ドローン企業、GAFAからe-commerceのインターネット企業までの企業連合が相手になる。
 
 こんな仕組みが普及していけば、政府の公共政策は消滅し、農業の未来は多国籍企業が決めることになっていくだろう。
 世界の数社がビッグデータを独占し、その数社の利益のために世界の農業と食が変えられてゆく。各国政府の農業・食料政策は形骸化し、農業指導員の代わりにバイエルのアプリが農薬も栽培する銘柄も決めていく。収穫物の流通経路まで押さえられてしまえば、もはや農家も従うしかなくなる。

 インド政府はすべての土地にデジタルIDを付けようとしている(3)。しかし、それがそのまま進めば土地の権利の証明ができない伝統的農家や先住民族は土地を奪われてしまうことが危惧される。そしてデジタル化された土地の情報はこのビッグデータ企業に利用されていくだろう。
 
 この動きはインドやブラジルをはじめ、アフリカ含む南の農民の生存をすでに危うくしているだけでなく、日本を含む北の農家の存在も危うくするだろう。農場のロボットを遠く離れた国のサーバーが自動管理でコントロールする。その行き着くところは農民のいない農場(無人工場化)かもしれない。
 
 その農場から生まれる富は地域からごく少数の企業に吸い上げられ、その利益はどの国にも還元されずに企業のものとなる。農場を追われた農家・農業労働者たちは行くところがあるだろうか? 利益は吸われっぱなしだから、社会政策の原資もなくなり、社会格差はさらに拡大するだろう。そして栽培されるものは「ゲノム編集」作物か合成生物、そのねじ曲げられた脆弱な生命を支えるためにさまざまな化学物質が使われざるをえなくなる。政府の規制はすでに取っ払われており、規制されない(4)。それを食べる人びとの健康も失われ、気候変動がさらに激化し、生物大量絶滅が進むというディストピアのシナリオが見えてくる。
 
 9月開催予定の国連食料システムサミットではこうした企業の力が披露され、世界の向かうべき方向として打ち出されることだろう。地域の食の循環、環境、健康、人権を求めていた市民組織はすべて排除され、環境を守るアグロエコロジーの推進を決議した国連総会も小規模農家による食料保障のために作られた機構も無視され、本来の食や農業を守る議題すら、このサミットではあらかじめ除外されている。通常の国連会議と違って、このサミットはその準備プロセスが市民組織に開かれておらず、世界の市民団体はボイコットを決めた。
 
 世界からボイコットされるサミットに向け、日本政府は「みどりの食料システム戦略」を準備し、その中でもIT技術を使ったスマート農業、「ゲノム編集」などのバイオテクノロジー技術が中軸に据えられている。2050年までに有機農業25%という有機農業の振興は飾りに過ぎず、地域の有機農業を振興する取り組みについては実質ゼロ回答のままだ。それを「みどりの戦略」と呼ぶのはあまりに露骨なグリーンウォッシュ以外の何ものでもない。
 
 日本政府はこの戦略で、日本の企業が儲かると考えているのかもしれないが、あまりに見通しが甘い。利益を得るのはこの巨大なデータプラットフォームを構築するバイエル、マイクロソフト、アマゾンなどの企業に限られ、日本企業はそのおこぼれも得られないだろう。そして農家や消費者は完全にその蚊帳の外になる。
 
 なぜ多国籍企業は国連を握ろうとしているのか? 農業は単なる産業ではなく、社会を支える基盤であり、各国政府は社会基盤としての農業を守る政策を持っている。その政策がある限り、多国籍企業は自由に動けない。世界各国政府の政策を変えさせ、規制を終わらせ、政府がやっていた仕事を奪わなければならない。そのために国連が使われる。
 
 この動きに対して、どうしていけばいいだろう? 一つには今、こうした動きに世界の市民運動が声を上げている。それに連帯して動くこと。国連を通じてこうした企業型食料システムを進める政策が世界中で実施されないように、行動することだろう。

 実際に現在の気候変動と生物大量絶滅の危機に対して農業を守るためにはいっそうのアグロエコロジーの推進が必要だ、と科学者たちは口を揃える(5)。化学肥料と農薬は生物の多様性の基盤である土の微生物たちの世界を破壊してしまう(6)。わたしたちの命の根源が破壊されれば農業どころでなくなってしまう。そのためには人工生物を栽培するロボットではなく、生態系を守る無数の農家が必要になる。
 
 IT技術を農業に使うことが問題なのではない。むしろIT技術は農業にこそ生かすべきだろう。問題はその情報が少数の多国籍企業に独占されることにある。多国籍企業の横暴を許さない国際条約を求める動きがすでに本格的に動き出しているが、多国籍企業の規制は急がなければならない。
 
 要は地域であり、自立した地域とその地域相互のグローバルな連帯が鍵になるだろう。地域での食の循環を守ることはこうした多国籍企業による食料システムの乗っ取りを防ぐ有効な手段であり、産直・提携は今の時代ほど本来の使命を発揮できる時はないほど、重要になってくる。そして、地域の社会と環境を守る食の政策と多国籍企業規制によって、このグローバルな支配と関連を切る必要がある。
 
 地域の環境と社会を守り、生かす政策を実現する、という、地方政治のごく当たり前のフレーズが、今では過激なスローガンになってしまうような時代になってしまった。今こそ、地域を守ろう。食を守ろう。そして世界の市民運動と連帯しよう。

(1) デジタル農業については以下のGrainの分析が参考になる。
Digital control: how Big Tech moves into food and farming (and what it means)
https://grain.org/e/6595

Climate Corportationによるデジタル農業の宣伝ビデオ
Welcome to Digital Farming – Climate FieldView

(2) アマゾンやマイクロソフトに管理されるブラジルの農場。IT企業の農業進出は同時にシンジェンタ、バイエル、BASFの古い遺伝子組み換え企業の支配を強める。
Uberização do campo: Amazon e Microsoft avançam sobre mercado de produção agrícola
https://www.brasildefato.com.br/2021/05/03/uberizacao-do-campo-amazon-e-microsoft-avancam-sobre-mercado-de-producao-agricola

(3) India’s Digital IDs For Land Could Exclude Poor, Indigenous Communities
https://kashmirobserver.net/2021/04/02/indias-digital-ids-for-land-could-exclude-poor-indigenous-communities/

(4) 前述の合成生物も「ゲノム編集」も規制されずに流通可能になってしまっている。表示もされない。
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/5273949132631874

(5) Climat et biodiversité : « Les petits pas de la politique agricole commune ne suffisent plus
https://www.lemonde.fr/idees/article/2021/05/03/climat-et-biodiversite-les-petits-pas-de-la-politique-agricole-commune-ne-suffisent-plus_6078952_3232.html

(6) New Soil Study Shows Pesticides ‘Destroying the Very Foundations of Web of Life’
https://www.commondreams.org/news/2021/05/04/new-soil-study-shows-pesticides-destroying-very-foundations-web-life

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