ビッグブラザーが田畑にやってくる

 今の世界が直面する食と環境の危機を理解する上で必見のビデオ。


 この10年、地殻変動とも言えるような動きが秘かに知られることもなく(一方でその動きは誰もが知っている事象をまとって)起きている。かつて食を危うくする勢力といえばモンサントなどの遺伝子組み換え企業を想定したものだった。今や彼らは集団訴訟でコテンパンに叩かれ、株価も下がる。一方、慢性疾患の激増、気候変動の激化や生物大量絶滅の危機に対して、人びとはより有機食品を選び始め、この流れは不可逆的な強さがあるように見える。
 しかし、かつてモンサントを筆頭とする「毒の同盟」(Poison Cartel)と呼ばれたこの勢力はビッグブラザー(巨大IT・ビッグデータ企業)と結びつき、食の流れをすべてデジタルデータとして掌握する存在へと姿を変え、その企業・資本家利益を最大化する「食料システム」の構築へと向かいだしている。
 
 表向きの姿は変わらない。GAFAの名前は今やテレビでもお馴染みになったし、市民に見えるのはAmazonに加え、Flipkart(インド、米国Walmartが買収)、AlibabaやTencent(中国)といった個々のオンラインショッピング会社のサービスでしかない。しかし、その背後を握るのは資金面では巨大な資産運用会社。企業の名前が違っていてもそこには競争はない。競争がなければ独占禁止法にひっかかるが、背後で同じBlackRockなどの巨大投資会社が握っているこの形態(horizontal shareholding)は制約されていない。利益は思うがまま、1%がすべてを握る世界になる。
 
 そして、その戦略を握るのは、ビッグデータ企業である。世界の食料生産をデジタル化によって把握するビッグデータ企業。そのデータを使って、消費者に欲望を作り出し、利益を捻り出す。この企業の存在もまた市民には目に見えない。
 
 市民には見えないウォールストリートとシリコンバレーが世界の食を握ろうとしている。これが新たな「食料システム」である。このシステムの目的は企業利潤の追求であり、人びとの健康や環境を守ることは企業宣伝以外には考えもしない。小規模家族農家は排除され、ドローンで農薬・化学肥料を撒き、ロボットが収穫し、すべてのデータはビッグデータ企業に集約される。流通も無人化が進められ、労働者も職を失う。消費者や農家の力は削がれてしまう。1% vs 99% のディストピアが進行してしまう。
 気候危機や生物大量絶滅という危機に直面して、その原因となる工業型農業をアグロエコロジーに変えることでそれからの危機からの離脱がかかっている、その時に、デジタル技術によってその工業型農業をさらに進める動きが本格的に出てきた、ということになる。これは人類の生存にも関わる大問題ということになるはずだ。
 
 そんなSFみたいなことは簡単には進まない? 残念ながら新型コロナウイルスのパンデミックによってこのプロセスが一気に進みつつある。人びとは家に閉じこもり、アマゾンで注文する。そのうちドローンやロボットが届ける時代が来る。
 
 この10年近く、国連では工業型農業の推進によって壊れた環境をアグロエコロジーによって戻し、企業化によって不安定化した食料生産を、小農を基盤とする農業を強化することによって修復する方針が中心に据えられてきた。しかし、それが、このビッグデータ食料システムによって塗りつぶされてしまおうとしている。9月の国連食料システムサミットではこうした技術の導入がメインの議題に据えられる。
 Big FinanceとBig Tech、金融とデジタル技術の力を使って、種苗から流通までビッグデータを通じて支配することで長期的に巨大な利益が確保できる。ただし、人びとの健康や環境、農家や流通業で働く労働者を犠牲にして。国連も各国政府もその企業連合のために政策を変え始めている。特に日本では急ピッチで進められつつある。
 
 しかし、そんなディストピアには未来は当然、ない。巨大な利益を稼ぎながら税金を払おうとしないアマゾンなどの企業に課税する動きも始まろうとしている。BlackRockなどの投資機関への抗議行動もグローバル化して可視化され始め、規制も提案され始めている。そして、グローバル化された食のシステムに対して、ローカルな生態系を守る食と農業を作ることで対抗する動きは世界大で動いている。対抗する動きは生まれており、私たち次第でそのシナリオは変わるだろう。
 
 要は地域での食の循環をどう守るか、そして巨大企業をどう規制するか、この2つの取り組みに集約できるはずだ。そして、それは決して勝てない闘いではない。しかし克服すべき相手を見ることもできなければ抵抗すらできなくなるだろう。まず、わたしたちが考えるべきことはこの動きをしっかりと把握することが必要だ。
 
 このビデオは世界の農民運動や市民運動と連携して動く小さな国際NGOであるETC Groupが作成したもの。英語、フランス語、スペイン語、スワヒリ語版がある。とても聴きやすい英語なので、ぜひ見てほしい。
 
 英語はダメ、という人の場合はパソコンだと自動生成の英語字幕を日本語に自動翻訳することも可能。ちょっと変な訳になってしまうところもあるが流れはつかめると思う。スマホの場合はYouTubeアプリでは日本語への自動翻訳はできないけど、URLをコピーして、Chromeなどのブラウザ・アプリで開き、PC版サイトのモードでの閲覧を選ぶことでスマホでも自動翻訳することが可能になる。

 ぜひ見ていただきたい。

Big Brother is Coming to the Farm: the digital takeover of food (English)

巨大企業の食に関する独占状況をこのETC Groupが分析している。2019年に発表されたものだが、種苗、化学肥料、農薬、農業機械、食肉企業、貿易など包括的なものとなっており、現状把握する際にとても有用なもの
Plate Tech-Tonics
Mapping Corporate Power in Big Food
https://www.etcgroup.org/content/plate-tech-tonics

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