公的種苗制度ともう1つの種苗制度の確立に向けて

 種苗法改正は問題だ、とこちらは書き続けているが、一方で、種苗法改正ではそんなに変わらない、問題じゃない、いや賛成だと言っている農家の方たちも存在する。この種苗問題を紐解いていくと驚くほどの分断がある。それゆえ、その分断を超えて行動することは容易ではない。まず栽培している品種によって状況が違いすぎる。品種開発をする側の農家と使う側の農家も一見利害が対立するようにも見える。でも問題を紐解いていけば解決策は見えてくると思う。どんな問題があるのかを見てみたい。

 たとえばこの種苗法改正は公的種苗事業の民営化以外のなのものでもないのだが、この公的種苗事業にも問題は存在している。
 各道府県はそれぞれの地域で耕作に向くお米の品種を産地品種銘柄に選定する。この銘柄に選定されると、その品種は検査を受けて、その品種名で販売ができる。でも選定されない在来種を栽培している農家のお米はその対象に外されてしまう。そしてそれは「その他の品種」としてしか流通に出せなくなってしまう(掲げているのは名古屋の学習会で使う資料から。愛知県での産地品種銘柄。産地品種銘柄がどんなものか知っていただくために掲載。特に愛知である必然はない。愛知県は日本有数の育種県で数多くの愛知県開発品種が栽培されている)。

 在来種を大事に育ててきた農家が実質的に流通に出せなくなってしまう、そうしたものとして公的種苗事業が存在してきた面がある。公的種苗事業のおかげでそれぞれの地方自治体の気候や土壌に合った多様な品種が育成されてきたと言う一方で、もっと多様な在来種を排除してきた体制でもある。在来種を守るために奮闘してきた人にとっては種子法廃止や種苗法改正は当然だ、という話になってしまいかねない。
 確かにこの体制は問題がある。それをまず認識するところからしか始まらない。でも、公的種苗事業がもし弱れば、地域の農業そのものが弱ってしまう。これを望んでいる農家はまずいないだろう。

 食政策センター ビジョン21の安田節子さんによるとTPPから生まれた規制改革推進会議は日本の米の流通制度を大幅に規制緩和することを求めているという(1)。この産地品種銘柄を都道府県ごとに設定する制度を無くして、日本全国で1つの制度にして、品種検査は簡略化するという内容だ。これは米の種苗から流通までを大企業が一手に担うための体制作りと言えるだろう。

 産地品種銘柄選定に基づく米の生産・流通体制には問題が確かにあった。それは地域の多様な在来種を排除してしまうからだ。今や、大企業が同一品種を大量生産・流通の邪魔になるということでこの制度が壊されようとしている。それは地域の種苗を一気にグローバルな品種に変える第一歩になるだろう。
 地域を支えていた小さな種苗市場がこうやって急速に壊されてしまうかもしれない。そのプロセスはすでに始まってしまっているのだ。それを許せばどうなるか、それは前に書いたのでここでは省く。
 
 それでは、わたしたちはどうすればいいだろうか? まず地方の米生産を守るために現状の公的種苗制度は守らなければならない。産地品種銘柄の仕組みも守る必要があるだろう。この制度がなくなれば大資本に牛耳られるだけなのだから。でもそれだけでは十分ではない。在来種などその枠にはまらない種苗は排除されたままだから。
 その排除された種苗をどうするかを考える場合、コロンビアの農民たちが作り出した参加型認証種苗システムの例が参考になるのではないだろうか? コロンビアでは「モンサント法」が施行され、登録品種の自家増殖は禁止され、そして種苗認証法で、登録品種以外は商業向けの農業生産はできない体制になってしまった。
 農家の持つ種子はすべて使えずに、外国企業の種子を買わなければならない、こうした体制が押しつけられようとした。これに対して、コロンビアの農民運動は農民たちの持つ在来種を活用し、それに政府が必須とする菌病などのテストをした上で、参加型認証を使って品質を認証する種苗システムを作り上げた(2)。
 参加型認証は農民や消費者、流通業者などが認証に参加することでより信頼度の高い認証ができるという仕組み。有機JASのような第3者認証の場合には費用が高くなるため、普通の農家には負担が難しいが、参加型認証はその負担が桁違いに低くなる。

 パブリックドメインの種苗を生かすためのもう1つの種苗制度を作ることで、公的種苗制度では実現できない種苗のあり方を作り出すことができるのではないか? 日本でも在来種が急速に消えゆこうとしている今、そうした制度作りは早急に取り組まなければならないのではないだろうか?

 この2つの制度ができることで地域の種苗は守ることができるようになるだろう。産地品種銘柄も種子法廃止によって法的後ろ盾がなくなっているだけに各都道府県での種子条例の制定が重要となる。
 
 あとは地域の育種家・育苗家(新品種を育てる農家)や種苗企業との関係だが、これについては先に書いているので反復はしないが、新品種を作る側と使う側双方共に今、苦境にあることの認識から、両者を共にボトムアップする政策なしに解決することは難しいと思う。今回の種苗法改正はこの両者のバランスを崩すだけで、地域農家が置かれた状況の改善をめざす政策が欠如しており、バランスを壊すことでは発展を見込めない。買う農家の側が減ってしまっては種苗市場の未来はない。栄養繁殖など著しく育苗家に不利なケースは契約を結ぶことも1つの手だろうし、地域の育種に補助・助成など実現していくことも必要になってくるだろう。
 いずれも種苗法の枠内で解決できることではなく、総合的な政策が求められるのではないだろうか。

(1) 安田節子さんのプレゼン

(2) コロンビアの参加型種苗認証システムについて
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/4363724506987679

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