新たな植民地主義の手段としての種子

 種子の権利は世界中で狙われている。多国籍企業は綿密な戦略を立て、自由貿易協定などを使って、自分たちを利するルールを世界各国の政府に押しつけている。この地図の赤い部分は多国籍企業の知的所有権を優越させ、企業の種子の農家による自家採種を禁止したUPOV1991年条約を批准した国・地域を示したもの。

 このルールは南の国にはメリットがない。知的所有権を北の多国籍企業に払わなければならないだけだからだ。だから、TPPやRCEPのような自由貿易を使って強制していく。農産物買ってあげるから、この規則を呑みなさい、ということだ。地図で空白、あるいは緑の部分を赤くするのが今の多国籍企業の目標だ。これが新しい形の植民地主義。軍事力を直接握って、他国を支配するのではなく、他国の権力を使って、知的所有権を武器に人びとを隷属化させる。彼らは国家権力をフルに使うが、国家の義務は担わず、国家の命令にも服さない。
 今、アフリカがその標的となっている。だんだんと食い破られて、赤くなり始めている。そして同時に遺伝子組み換え栽培の圧力が高まっている。
 しかし、これは決して「北の国」対「南の国」という国家間だけで起きる問題ではない。北の国の人びとも同時に種子の権利を奪われていく。日本はUPV1991年条約をほぼ先頭を切って批准している。ただし、混乱を避けるためとして、いきなりこのルールを適用させるのではなく、年々、自家採種できない範囲を徐々に拡げる形で、進めている。人びとが気がつかないようにこっそりと。そして、日本政府はTPPやRCEP、さらにはそれ以外のルートも通じてアジア、アフリカ諸国にUPOV1991年条約の批准に圧力をかけている。
 しかし、一方、逆の動きも生まれてきている。
 FAOはアグロエコロジーの推進を決め、来年からは「家族農業の10年」が始まる。小農の権利宣言制定作業も国連で進んでいる。農民の種子の権利を確立させようという動きだ。地域のタネを守ろうという動きも世界的に広がっている。
 1%にも満たない多国籍企業の利益のために、世界の農家の種子の権利を奪うのか、それともその権利の確立に向かうのか、問われている。

 今、日本政府の動きが突出してしまっている。種子法廃止、農業競争力強化支援法、市場法改悪など。そして外交面でもそれは悪影響を与え始めている。UPOV1991年条約の強要、さらには小農の権利宣言への敵対。
 国際的な農民の権利、消費者の権利を求める運動とつながることは日本にとってとても重要な課題になってくる。

 『種子ーみんなのもの? それとも企業の所有物?』の日本語版を作ろうと思ったのは、このタネをめぐる闘いではラテンアメリカでの闘いがもっとも鮮明にその問題を明らかにしているからだ。確かに日本とは状況が違う、しかし、その本質において、まったく同じ事態が日本でも進行しつつある。そう思って見てもらえればまったく違って見えるはずだ。

『種子―みんなのもの? それとも企業の所有物?』
解説資料(24ページ)、用語説明シート(2ページ)は自由にダウンロードして使ってください。

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