栄養と市場を失い続ける米国の遺伝子組み換え大豆

 トランプ大統領が鉄鋼とスティールに関税、貿易戦争の文字が世界のメディアに躍る。せいぜい中間選挙を睨んだパフォーマンスに過ぎないだろうが、実は米国はもっと深刻な貿易戦争に敗れ続けている。
 世界一を誇ってきた農業大国の衰えが激しい。その主要因は遺伝子組み換え農業ではないか?
 2012/13年、圧倒的な生産量を誇った米国大豆はブラジルにトップの座を譲った。小麦やジャガイモはメダルさえ届かない世界4位。トウモロコシは今なお世界一だが、1995年に世界の輸出量の71%を占めていたのが2016年には4割を切った。
 米国産の大豆が嫌われる。なぜか? 栄養がないからだ。米国産大豆に含まれるタンパク質は年々減少傾向にある。特に遺伝子組み換え大豆が始まって以降、その減少は顕著である。そのため、中国市場を大きく失いつつある。その市場を埋めているのはブラジル。ブラジル大豆の大部分も遺伝子組み換えで、ブラジルにおいても大豆に含まれるタンパク質は減少傾向にある。しかし、ブラジルの場合は遺伝子組み換え大豆の本格栽培が始まった年が米国に比べ10年近く遅い(完全合法化は2005年)。米国産に比べるとタンパク質含有率は高い。

 大豆に含まれる微量ミネラルについてはデータはないが、タンパク質以上に減少している可能性が高いだろう。遺伝子組み換え大豆に圧倒的な割合で使われる農薬がモンサントのグリホサート(ラウンドアップ)にはキレート剤としてミネラル質を剥ぎ落とす性質がある。グリホサートは元は産業用配管洗浄液。微量ミネラルが摂取できなければ家畜の動物も死んでしまう。植物の微量ミネラルの摂取、そして人や家畜の摂取も阻害している可能性がある。それが米国で深刻な健康被害を作り出している可能性がある。

 なぜ、大豆のタンパク質の含有量が減り続けるのか? モンサントらは収穫高が増えることには熱心だが、タンパク質含有量には関心がないとロイターの記事は伝える。しかし、そもそもモンサントの遺伝子組み換え大豆はタンパク質を作る経路を変えてしまう。本来の大豆に遺伝子組み換えはかなわない。タンパク質を作る機能が劣化してしまっているのかもしれない。だから、モンサントにとっては関心がないという以上に変えられないのではないか? さらに年々使用量が増えるグリホサートが土壌に悪影響を与え、より栄養のない大豆につながっているかもしれない。

 中国市場は米国産を避けて、ブラジル産を選ぶ。しかし、日本はむしろ米国産への依存を深めている。2012年は米国産大豆は全輸入の65%、2016年はそれが69%に増加している。EUは南米産遺伝子組み換えから域内産の非遺伝子組み換え大豆にシフトし始めている。

 米国の貿易赤字は今後さらに深刻化し、米国農業は市場を失い続けるだろう。でも、それを阻む手段を米国は持っている。自由貿易協定だ。自由貿易協定を打ち立てた国との間では、こうした農産物の輸出が回復している。本当に自由であれば市場は避けるはずだが、実際に自由などは存在しない。日米協議が恐ろしいのはまさに中国やEUが拒否するものを日本が買わされることが前提となるからだ。
 日本は真剣に米国大豆依存からのオルタナティブを真剣に考えなければならない。

The U.S. soy industry’s protein problem 失われるタンパク質と中国市場

Protein plight: Brazil steals U.S. soybean share in China ブラジルに奪われる米国の中国大豆市場

日本の大豆輸入の推移 1995年から2016年 Show All Yearsをクリックするとスライド表示できる

トウモロコシ貿易の推移 Show All Yearsをクリック

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