日本の遺伝子組み換え承認行政の暴走

枯れ葉剤 耐性遺伝子組み換えなどの承認についての生物多様性影響評価検討会総合検討会が6月30日に農水省で開かれたので傍聴してきた。

中身は

  1. 除草剤アリルオキシアルカノエート系、グルホシネート及びグリホサート耐性ダイズ(DAS68416×MON89788)の生物多様性影響評価書の検討
  2. 低リグニンアルファルファ (KK179)の生物多様性影響評価書の検討
  3. 遺伝子組み換え農作物の審査手続きの見直しについて

最後に遺伝子組み換え大豆とツルマメの交雑性等についての研究結果の報告。

この3件はどれも見逃すことのできない重大な問題をはらむものだが、検討会自身ほとんど本格的な議論は交わされていない。半分は原稿をただ読み上げるだけ。議論に費やした時間は30分にも満たないのではないだろうか? 決まり切った定型文句を読み上げることを含んで1時間10分程度で終わっている。

まずこの中味を一つ一つ見ていこう。

枯れ葉剤耐性遺伝子組み換え大豆の検討

最初の除草剤アリルオキシアルカノエート系、グルホシネート及びグリホサート耐性ダイズだが、除草剤アリルオキシアルカノエート系とは2,4-D、ベトナム戦争の枯れ葉剤作戦に使われた主成分の1つである。

ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤の主成分の1つ、2,4,5-Tは世界的に禁止されたが、2,4-Dは除草剤として認可されているが、禁止を免れた経緯には情報操作を指摘する声もあり、今なお危険な農薬とされている。

その2,4-Dに耐える遺伝子組み換えが登場してきた背景にはモンサントの作った除草剤ラウンドアップが効かなくなってきたことがある。ラウンドアップをかけても枯れないスーパー雑草がほぼ全米中で出現している。その結果、ラウンドアップの使用量は激増し、それでも対応できず、グルホシネートなど他の除草剤をブレンドし始める。耐性雑草の勢いは止まらず、ここで枯れ葉剤の出番というわけだ。

2,4-Dをかけると無差別に作物を枯らせてしまうから現在の使い道は限られている。でも大豆など作物がその耐性をもつとなれば、広大な大豆畑の上にまくことが可能になる。この枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えが出現することで、撒かれる枯れ葉剤の量は25倍に増加するという指摘もある。ベトナム戦争で使われた2,4-Dが大量に撒かれることに対して米国あげて大きな反対運動が巻き起こり、ここ数年、米国では6月30日段階ではまだ承認されるに至っていない。

しかし、日本では2012年12月にすでに承認してしまっている。遺伝子組み換え大豆はとりあえずは日本では実験圃場を除けば栽培されていないから関係ない? いやそんなことはない。日本に入ってくる大豆のほとんどはすでに遺伝子組み換え。それは飼料や加工食品の原料となって、表示されることもなく、日本人の胃の中に入ってきている。もし米国で承認されればそれは日本人は知ることもなく、枯れ葉剤のかかった遺伝子組み換え作物を直接・間接に食べることになる。

そんな大問題であるにも関わらず、日本のマスメディアはまったく報道しない。日本は2012年以来、すでに3品種の枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えトウモロコシの食用、飼料用、栽培用の利用を承認してしまっている。今回は枯れ葉剤耐性の大豆だ。

どんな討議があったのか? ない。これまで枯れ葉剤耐性の遺伝子組み換えの検討会には3度ほど足を運んだが今まで実質的質疑はゼロだ。何もなし。

さすがに何もないと気まずいのか、2件、質問が出たが、承認に疑問を呈するようなものではまったくなかった。

低リグニンアルファルファ

リグニンとは巨大な生体高分子のことで、これが高くなると吸収が悪くなり、牧草としてまずいということで、リグニンが低くなるように遺伝子組み換えしたもの。

この遺伝子組み換えにはRNAiあるいはRNA干渉と呼ばれる手法が使われる。RNA干渉により特定の遺伝子の発現を抑制しようとするもので、この手法を作物に導入することには危険が指摘されている。

この件ではめずらしく議論があった。しかも、従来の枠組みからすれば外れるような、本質的な指摘といってもいいだろう。

それは、このモンサントのアルファルファは遺伝子組み換えによってリグニンを下げているのだが、それがあまり下がっていない。非遺伝子組み換えにもそれ以上に低い者がある。わざわざ、あまり効果のないことに遺伝子組み換えを使うというのはいかなるものか、という質問だ。

しかし、こうした本質的な指摘すら、そもそもこの検討会ではこうしたことは検討する枠組みからは外れたものとなってしまうのだろう。指摘した本人自身、自分の発言を不規則発言と言いながらの発言であり、そこには不承認にいくような動きはまったくなかった。まったく必要性のない遺伝子組み換えであっても現在の枠組みにあってしまえば承認されてしまう現在の承認過程の本質的問題がここに浮かび上がる。

座長はあくまで申請は申請だから、として申請に対して議論するとして、この議論をさらに深めることなく、打ち切り、この安全評価が妥当であるという結論となってしまった。

検討会の問題点

それではこの検討会の枠組みとは何なのか?

カルタヘナ法に基づき、生物多様性に与える影響があるかないか、という枠が作られており、野生生物に対して以下の影響があるかないかがその枠組みだ。

  1. 競合における優位性
  2. 有害物質の産出性
  3. 交雑性

最初の競合における優位性は、野生種を駆逐する侵略的外来種となりえるかどうかが問われる。それが認められなければOKである。

次の有害物質産出性は生態系に有害物質となるような物質をこの遺伝子組み換え作物が産出するかどうかで判断される。それが産出しないという結論が出ればOKである。

最後は野生の交雑可能な種に交雑が起きないとされればOKである。

しかし、これがOKでたからといって遺伝子組み換えが安全ということになるだろうか? あくまで特定の枠組みの中だけで判断しているだけで、そのスコープを前提としない限り、まったく有効でないいわば虚構にたって判断しているに過ぎない。

たとえば南北米大陸で大きな問題となっている枯れ葉剤遺伝子組み換えは、この導入によって、枯れ葉剤が大量に撒かれ、その枯れ葉剤が畑から流出し、周囲の生態系や住民の健康に大きな影響を及ぼすことが懸念されている。

このような懸念は日本の検討会ではどう検討するのか? まったくしない。こうしたことは上記の枠組みに入らないのだから。枯れ葉剤が与える影響、残留枯れ葉剤による影響、RNA干渉技術が持っている危険性、それらは一度も語られもしなかった。

しかし、ひとたび、この審査をくぐって日本政府が承認をすると、遺伝子組み換え企業はこのように誇らしく宣伝することになる。「厳重な安全審査をくぐっている」、と。実際には危険性はまったくチェックすらされていないにも関わらず。

こうした問題をマスコミは報じない。だから委員の発言にも緊張感が感じられない。実際に問題が起きたら自分たちが責任を持たなければならないという緊張感を欠いた発言が時折り出てくる。

アルファルファの検討の時に、この申請書には「交雑は起こらないと考えられる」と書かれているがそう考える根拠は何なのか、という質問が出た。この質問自身は大事な点を指摘している。実際に申請書に書かれている表現に「と考えられる」という類の表現は多い。実際に実験せずに単に頭の中の推論だけで結論付けられていることが多いからだ。これを一つ一つ突き詰めたらこの申請は認められないことになるだろう。しかし、その後、議論は発展することはない。「『交雑は起こらないと考えられる』ではなくて『交雑は起こらない』と書いてしまえばいい」、などという発言が出てくる。一体何のために検討しているのか?

遺伝子組み換え審査の規制緩和

そして最後の、遺伝子組み換え審査の規制緩和である。

見直し内容は2つ。1つは遺伝子組み換えトウモロコシの隔離圃場での試験を実質的に免除しようというもの。もう1つは、すでに承認されている形質を受け継ぐ遺伝子組み換えの審査を簡略化するというものだ。

これまでは遺伝子組み換え作物を承認するには、米国で承認されたものでもまず日本の隔離圃場で試験の申請を行い、試験して、問題ないことを証明させた上で、日本での食用、飼料用、栽培用に申請を行い、承認が出るというプロセスを踏んでいた。

これはGM企業にとっては米国ですでに実験して証明しているのになんでまた日本でやるんだ、二度手間であり、費用も時間もかかってしまう。だから米国で証明されたものは日本ではやる必要がない、省いてほしい、ということだ。これは実はTPPに対してバイオテクノロジー企業のロビー団体が米国通商代表部に要求していた要求事項である(TPPとバイオテクノロジー企業参照)。それが一部、実現するという話しである。

最初は特定の遺伝子組み換えトウモロコシ限定ということになるが、そのうちに、さらに規制緩和が進むかもしれない。となると、茨城のモンサント実験場などは必要性がなくなるのかもしれない。日本にとってはモンサントの実験農場がなくなるとしたらいい話にも思えるかもしれないが、米国で決まったことがそのまま押しつけられるのだからより米国企業のためになる「おもいやり緩和」ということが言えるだろう。

さらにもう1つの緩和も大いに問題だ。現在、ラウンドアップが効かなくなっているので、ラウンドアップやグルホシネート、2,4-Dという複数の形質を持った遺伝子組み換えが主流になっている。さらに虫にとっての毒素を含む害虫抵抗性遺伝子組み換えでも多数の種類の毒素を生成する遺伝子組み換えが品種が開発されている。それらの品種は単独ではなく、組み合わされた品種が売られていく。つまりラウンドアップだけに耐える能力を持つだけでなく、2,4-Dに耐えるように、さらには複数の害虫抵抗性の能力を持つように作られていく。

そうした複数の組み合わせで現在の遺伝子組み換えが作られているため、多数の組み合わせを1つ1つ申請していくと膨大な申請数になる。だから申請を簡素化するというのだ。

親の形質がすでに承認されているものの形質を受け継いだ子にあたる遺伝子組み換えはどんな組み合わせであっても一括申請ができることになる。これまでは申請は1品種1つ。これによって遺伝子組み換え企業は大量の遺伝子組み換え品種をまとめて申請することができるようになり、その申請作業は大いにはかどるということになる。

農水省が承認した遺伝子組み換え作物の承認数(累計)しかし、今世界で起きていることは別の動きだ。フランスはあらゆる遺伝子組み換えトウモロコシの承認を禁止した。イタリアもモンサントのMON810というトウモロコシの承認を禁止している。ロシアも実質的に栽培を禁止し、中国も規制に向かっている。ペルーも10年間の凍結を決めている。フランスではMON810はもとより、その派生の品種もすべて禁止になっている。しかし、日本では承認されているMON810を受け継いだものであれば一括申請して一括承認得られるということになるというのだ。

検討会委員の中には承認に際し、想定外のことを想定しなくてはならないという人もいた。憲法9条と同様に安全装置はしっかりさせなければならない、と。これが審査が緩和され後退したと思われるとしたら不本意だ、とも語られた。しかし、その審査の内実をどう保障するのか何も議論されぬまま、一括申請ではあっても審査をしないわけではない、という農水省側の事務局の言葉で納められてしまった。この審査手続きの見直しは遺伝子組み換え企業にとっては大きなプレゼントとなるだろう。

世界は今後2つのブロックに分かれていくのかもしれない。米国のバイテク企業の支配に入り、その影響下でどんどん問題ある食品を消費していくブロックと、米国と距離を取って、遺伝子組み換えを排除していくブロックである。日本は残念ながら前者のブロックの優等生であり、米国よりも進んでいる。残念ながら農水省やその検討会に参加している学者はその事態を変えなければいけないという認識はまったく持っていないようだ。

しかし果たしてそれでいいのか。日本の遺伝子組み換え承認制度はまったく虚構としかいいようのない枠組みを作り、その中で判断をしているに留まる。いかに検討委員が問題ある判断をしていると非難しても、彼らはこの虚構に誠実に働いているわけであり、彼らからすれば与えられた枠組みの中で、忠実に検討しているということになる。

問題なのは枠組みであり、それを作っているのは政治であるとしたら、この問題はこの問題を放置している政治家と市民の責任ということになるのだろう。

しかし、かといって検討会委員をまったく免責する気にはならない。ブラジルの遺伝子組み換え承認機構の中では中から異議申し立てが出てきて、外部からの批判と呼応して、公共省による遺伝子組み換え差し止め要求につながっていると聞く。本当にこの枠組みに一人の人間として疑問を持たないのか、持たないとしたらかなり感性に問題があると言わざるを得ないと思う。

そして、最後にやはりこの問題を放置し続けているすべての関係者に遺伝子組み換えがすでに世界の生態系や人間の健康に甚大な影響を与える段階に至っており、それは原発に匹敵する問題であることを指摘しておきたい。今ならばまだ破滅は止められるかもしれない。あるいは被害を減らすことができるかもしれない。しかし、放置すれば被害は飛躍的に大きくなり、取り戻せない生態系の破壊、健康被害が起きるだろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です