怒らないのは日本の文化なのか?

 長く、苦しい気持ちにさせられてしまうことだが、原爆投下といい、原発事故といい、これだけのことが起きながらなぜ日本人は怒らないのか、それが日本の文化だからだという言われ方が日本の外では良識的な人びとの間ですらよくされる。
 今回の原発に限らない。『菊と刀』以来、日本は特殊な国、特殊な文化なのだ、という断定が世界中に蔓延っているし、日本人自身、そんな評価を自らの「誇り」にしている人さえいる。もちろん、独自性は常に重要だ。でも独自性と特殊性は異なる。前者は世界文化に独自の寄与をする根拠になるけど、後者は民衆連帯の妨げにしかならない。
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アルゼンチン、遺伝子組み換え大豆の農薬噴霧で居住不能になった町

アルゼンチンでは遺伝子組み換え大豆の耕作が急激に増加し、全農耕地の6割を超すほどの巨大なモノカルチャーとなっている。この大豆耕作に伴い、モンサントのラウンドアップなどの農薬が大量に使われるようになり、大きな健康被害と環境破壊を生み出している。その実態をTengaiというエクアドルの環境問題のニュースを扱う市民メディアがアルゼンチン医師のインタビューを通じて明らかにした。

このように深刻な健康被害、環境破壊をして作られる大豆はヨーロッパや日本を含むアジアの家畜の餌やバイオ燃料として輸出される。彼らの被害は日本のわれわれと無関係でなく、彼らの苦しみはやがて家畜の肉を通じてわれわれの体にも入ってくるかもしれない。その意味でも他人事ではない。

スペイン語の翻訳をしていただいたものを以下に掲載する。

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小農民の闘い国際デー 日本とのつながりを考える

4月17日は小農民の闘い国際デー。その翌日にfrom Earth Cafe “OHANA”でこの日の意味を日本との関係で考える集いが開かれ、問題提起をさせていただいた。

16年前の1996年4月17日、ブラジルのアマゾン東端のエルドラードドスカラジャスで農地改革を求める人びとが21日虐殺された。この日を小農民の闘い国際デーとしてVia Campesinaとそれに賛同する運動が世界各地で取り組みを毎年行っている。

まずはMST(Movimento dos Trabalhadores Rurais Sem Terra、土地なし地方労働者運動)の取り組みを通じてそのブラジルの小農民の闘いを見た。MSTはブラジルの農地改革を求める人びとの運動をつなげていく形で1984年に結成された運動団体である。

下のビデオはリオグランジドスル州で農地改革を求めてキャンプ生活を送る人びとのインタビューを中心にMSTの歴史を振り返り、MSTの使命、MSTの求めるビジョンを表現したものだ(ポルトガル語、スペイン語字幕)。

MST (Movimiento Sin Tierra) 1ra parte: Campamentos

農地改革を求める素顔の人びとの顔があらわれていて、なかなかいいビデオだと思う。ブラジルでは1%の超大地主が農地の46%を独占しているという。1988年憲法(現行憲法)では社会的機能を果たしていない非生産的土地は農地改革の対象となる。しかし、行政はほとんど動かない。

MSTはそうした土地を見つけて、その側にキャンプを張り、長年政府にその土地の農地改革を求めて闘う。今は占拠(オキュパイ)運動が盛んだが、ブラジルの農地改革を求める人びとは長いこと、そうした活動を行ってきた。彼らの運動は合法的であり、ブラジル社会の中からも絶えない支援がある。しかし、地方で絶大な権力を持つ大土地所有者は政府や警察、マスコミに大きな影響力を持ち、MSTを犯罪組織、テロ組織として孤立化させようとしてきている。

そんな中でも歌手や有名人でMSTの支援を公言している人たちは少なくない。下記のビデオはChico César。実力と人気のある歌手だ。Pensar em Vocêとは「あなたのことを思う」という意味。

農地改革を求める運動に対して、さまざまな弾圧がかけられる。自警団(殺し屋)による恐喝、殺害、警察による強制排除など。最悪のケースが1996年にエルドラードドスカラジャスでで起きた。大地主に依頼された軍警察が無差別発砲、21人が殺され、多数の負傷者を出した事件だ。

下記のビデオはこの事件を小説『中断させられた行進』に書いた著者へのインタビューでカラジャスの虐殺をまとめたものだ

小農民とは誰か?

ブラジルの場合、それは先住民族であり、最初の闘いは先住民族の闘いだった。現在もなお、先住民族は土地を奪われ、殺害の対象となるなど厳しい状況が続いている。下記のビデオはマトグロッソ州で豊かな森を牧場や大豆畑に奪われた先住民族シャバンチの闘いを描いたもの。

もう1つ、下記はマトグロッソドスル州で同様に大豆やサトウキビ畑に土地を奪われる先住民族グアラニ・カイオワの闘いを描いたものである。

ブラジル、南米の小農民を追い詰める遺伝子組み換え大豆

ここ近年、ブラジルを含む南米で急速に遺伝子組み換え種子が農業生産に入り込んできた。この過程は逆農地改革と呼ばれる。つまり、世界最悪レベルの農地の集中を改善する農地改革をするのではなく、遺伝子組み換え大豆を導入することで、さらに土地の集中、分配の不公平を拡大させることになるというものだ。

その状況を示すビデオが以下の『Killing Fields』。ブラジルだけでなくパラグアイも含めて、現地の小農民、先住民族に何が起きているかを表現した番組である。(GreenTVに日本語字幕版があったのだが、現在アクセスできない状況になっているので、ここでは英語版を紹介しておく)。

詳細は末尾のプレゼンファイルの図表などを参照していただきたいが、ここ10年ほどの間にブラジルだけでなく、アルゼンチン、パラグアイ、ボリビアなど南米での大豆生産は急増しており、それに伴い、農薬使用も激増している。

その中で小農民は土地を追い出され、また住民はその農薬によって大きな被害を受けるにいたっている。

アルゼンチンでも空中散布される農薬(モンサントの開発したラウンドアップ)によって大豆畑周辺住民にガンや白血病、胎児や子どもの病気が大幅に増え、国連人権委員会でも取り上げられる大きな問題となっている。

この問題に関しては遺伝子組み換え大豆の農薬空中散布を止めた母親たちにまとめたので、その記事を参照していただきたい。

この大豆生産が急激に増加した理由、それは北における大豆の需要が急増したからに他ならない。その理由の一つは家畜の餌であり、もう1つはバイオ燃料である。

南米での逆農地改革を止める上で日本の消費者にはできることがある。いや止める義務があると言った方がいいかもしれない。単に義務というだけでなく、食の安全を考える上でもこれは避けて通れない。遺伝子組み換え大豆は決して安全な食品ではない。遺伝子組み換え大豆を食べて育った家畜は病気になる可能性が高い。

大地や小農民を傷つけて作られた大豆はまたそれを食べる家畜をも傷つける。遺伝子組み換えではない安全な飼料を食べさせた肉を求めること、そしてどのような飼料を食べさせたのか食品表示の義務づけを行うことはこうした反倫理的食料生産を停止に追い込む上で有効なはずだ。

この問題で浮かび上がる問題は食料主権の問題であると思う。遺伝子組み換え大豆が植えられた地域では食料がなくなってしまう。遺伝子組み換え大豆は主として輸出のための家畜の餌であったり、バイオ燃料の原料であり、食料ではない。食料を外の地域から輸入して購入できないものは飢えるしかない。

ひるがえって日本を考える。先進国の中で圧倒的に低い日本の食料自給率。前原議員などは現在の日本の農業すらも売り渡して構わないようなことを言って憚らない。いわば日本は世界でもっとも食料主権を売り渡してしまっている国といわざるをえないだろう。

一方、南米において人びとは食料主権を取り戻し、自分たちの手で自分たちが食べるものを作り出せる社会にしようと闘っている。

われわれにとって問われているのは彼らの食料主権を奪うような現在の農業モデル・穀物流通ビジネスモデルのまま消費を続けることを止めることによって彼らの食料主権を求める闘いと連帯して、同時にわれわれにとっての食料主権を取り戻すことであると考える。

遺伝子組み換え大豆の農薬空中散布を止めた母親たち

ノーベル環境賞とも言われるゴールドマン環境賞をアルゼンチンで遺伝子組み換え大豆の農薬散布を止めた母親たちの運動のリーダーのソフィア・ガティカ(Sofia Gatica)さんが受賞した。

この賞は権威あるもの。賞のことより、Sofiaさんの活動のすばらしさに感動を覚えた。単に個人的に感動を覚えるだけでなく、彼女の活動は放射能汚染を抱える日本の多くの人にとってもインスピレーションを与えるに違いないと思う。
Sofia Gaticaさん

彼女の取り組みについては詳しくは短いビデオが作られていてとてもいい出来なので、それを見るのが一番だが、英語なので、ごく簡単にその概要を書いておく(ビデオは末尾に日本語字幕をつけたものを載せてある。3分32秒)。

アルゼンチンは1990年代後半から急激に遺伝子組み換え大豆の生産が拡大し、現在は世界第3位。しかし、その生産方法は広大な土地に大豆だけを植えて、飛行機から農薬を散布するというものだ。この農薬が毒性が高いモンサントの開発したラウンドアップ。
農薬空中散布

ソフィアさんは生まれてすぐの娘をこの農薬によって失った。その娘の死が受け入れられなかったソフィアさんは近くの母親たちを訪ね歩き、農薬の影響を懸念する母親たちを組織して、近所で発生しているガンなどの病気を調べ上げ、地図にまとめた。彼女たちの調査でわかったことは近所のガン発生率は全国レベルの41倍という高さだということだった(下の地図の赤い丸がガン患者)。
近所の病気の地図

母親たちは農薬空中散布ストップキャンペーンを始めた。コミュニティの人たちに農薬の危険を知らせた。
農薬の危険を知らせるセミナーを開く
しかし、その後ソフィアさんは電話で「子どもを殺すぞ」という脅迫を受けるようになり、ある男に銃を頭につきつけられて「大豆と関わるのはやめろ」と脅された。「でも私は止まるわけにはいかなかった」
「ここで起きているのは隠された大量虐殺。ゆっくり、そして秘かに毒を流す」
農薬に苦しむ住民
10年にわたる彼女たちの活動はついに大統領を動かし、農薬の影響調査を保健省に命じた。

ソフィアさんは大学の研究者(Andres Carrasco氏)とも連携して、農薬が出生異常をもたらすことを確認した。
Andres Carrasco博士とSofiaさん
この活動の結果、住民の居住地2500メートルの範囲の農薬空中散布は禁止されることになった。母親たちは全国中の農薬空中散布を禁止することを求めてさらに活動している。

アルゼンチンの農場の6割が大豆になっている。いわば大豆ブームの中でそれに対する闘いがどれほど困難なものか想像してみる。国中が熱中しているものにノーを突きつけるということはそう簡単なことではない。最近でもアルゼンチンで農薬汚染された地下水は塩水と同じだと御用学者が言ったとか。日本の放射能汚染で聞いたような台詞だが、そういう手のものは地球の裏でもごまんといるのだろう。

実際に殺害予告もあった。大農場主が法であり裁判官であるような南米において、その大農場主を敵にするということの怖さはなかなか表現するのが難しいと思う。

しかし、彼女は負けなかった。娘の無念を晴らすということ、そして今心配を抱えているお母さんたちとの連帯がそれを可能にしたのかもしれない。

彼女の闘いは極めて冷静で理詰めであったことは特筆できる。まず実態調査を行い、さらに信頼できるAndres Carrasco博士と動くことで有効な情報を国に突きつけることができた。Andres Carrasco博士はアルゼンチンでの農薬問題が大きな人権問題であることを証明した中心的な科学者である。

今、放射能汚染にまみれる日本、医療機関は情報を隠蔽し、放射能の被害は隠されている。そんな日本においても彼女の闘いはインスピレーションを与えずにはいないだろう。

ビデオはわずか3分32秒。ぜひ見てほしい(日本語字幕つけました)。


このビデオは2012年4月18日に「小農民の闘い国際デー」(勉強会)で南米で起きている遺伝子組み換え大豆による被害の1つとして紹介した。この勉強会の報告も読んでいただければ幸い →小農民の闘い国際デー 日本とのつながりを考える



このソフィアさんたちの作った地図(町の農薬噴霧と関連がありうる病人の存在を記した地図)の詳細が見たいと思って検索していたら見つけた。

地図には白血病、ガン、ガンでなくなった、肝炎自己免疫症などのマークがある。実に痛々しい地図だ。遺伝子組み換え大豆に囲まれた小さな町に異常な病の発生。同様のことは南米の他の地域でも発生しているはずだが、なかなかこうした情報は出てこない。それだけにソフィアさんたちの奮闘の持つ意義ははかりしれない。

遺伝子組み換え大豆に追い詰められる南米先住民族 ブラジルを中心に

PARC先住民族チャンネル】オープン記念セミナー <脱成長・脱原発の時代と先住民族の暮らし> 2012年1月21日 アジア太平洋資料センター(PARC)で遺伝子組み換えと南米の先住民族の問題について話させていただいた。

同時に上映させてもらったビデオ、Killing Fields (Ecologist Film Unit / Friends of the Earth、日本語字幕GreenTV) 第一幕第2幕ビデオの方はヨーロッパから見た遺伝子組み換えが主題で、特に第2幕の最後の方はかなり主題から逸れてしまうのだけど、日本語の字幕の入ったビデオがほとんどないので、これを使わせてもらった。

急激な遺伝子組み換え大豆栽培の増加によって南米の先住民族や自然が痛めつけられている。日本もまたそれに無関係ではない。

PARC先住民族チャンネル