アグロエコロジー・セミナーで感じた違和感

 アグロエコロジーの教科書が日本語で出版されたということで、アグロエコロジーをテーマとするセミナーがいくつも行われた。その一つに参加してみたけれども、違和感を感じざるをえなかった。そのセミナーではアグロエコロジーとは単に自然と調和した農業、というイメージしか感じられなかったからだ。でもアグロエコロジーについてその意義をここ10数年紹介してきた僕にとって、アグロエコロジーとは到底、そんな枠組みに収まるものではありえない。何が欠けているのか考えてみたい。 “アグロエコロジー・セミナーで感じた違和感” の続きを読む

食料危機をどう回避する? 乗り越える?

 食料危機に日本は明らかに脆弱すぎるのになぜ日本政府はこれまで抜本的な対策を取らなかったのか? 米国の食料戦略が日本政府の思考の前提となってしまっているからだ。飢えるかもしれないという事態に対して、政府官僚は「解決策は農産物輸出だ」などと平気で応える。民が飢えるのにどうして農産物輸出? なんでそんなに愚かなの? エリートなんでしょ? なぜそうなってしまうかというと、彼らが米国の農産物輸入が大前提というマインドコントロール状態だからだ。食料自給率を上げたら、輸入ができなくなってしまう。彼らは食料自給率を上げるポーズを見せるが、本音では御法度なのだ。だから「日本の農業の発展は輸出以外ない」という話になってしまう。
 でも、弱った日本の農業でなぜ輸出で稼げるの? そこで持ち出されるのが技術依存政策(しかも「ゲノム編集」などのバイオテクノロジー)になる。
 
 この輸出・技術依存政策は彼らの農業政策の柱である。でももちろん、輸出で儲かるのは一部の企業だけだ。しかも成功する確率は高くない。その利益のおこぼれは農家にはほとんど届かない。 “食料危機をどう回避する? 乗り越える?” の続きを読む

稲の自家採種ができなくなる!? 種苗法改正はだまし討ちだった?

 今後、10年以内にほとんどの稲が自家採種できなくなる!?
 なぜ、そうなるかというと、農水省は全国の品種の「コシヒカリ環1号」との交配を進めており、漸次、既存品種と全量転換となり、転換された品種はみな自家採種が許されなくなるからだ。「コシヒカリ環1号」は放射線によってカドミウムを吸収する遺伝子の1塩基を破壊した稲で、その破壊された遺伝子OsNramp5は遺伝子特許が取られている。
 すでに2018年の段階でそうした品種は100品種以上にのぼっていると農水省は述べている(1)。そこで、そのリストと現段階でわかっているリストを5月6日に情報公開請求した。そして7月10日過ぎになって届いたリストは黒塗りばかりのいわゆる「のり弁」になっていた(2)。

黒塗りされた放射線育種米リスト “稲の自家採種ができなくなる!? 種苗法改正はだまし討ちだった?” の続きを読む

ブラジルの反飢餓政策の復活:ホームレス運動による「連帯キッチン」が政策に

 食と政治の関係、もっともドラマチックに表現しているのがブラジルかもしれない。ブラジルは飛び抜けた極少数の金持ちが過半数の農地を独占する一方で、多くの飢餓状態の人びとが苦しんでいた。1993年以降、市民による反飢餓運動が全国に広がり、ついに2001年、労働者党の大統領が選ばれる。そして生まれた飢餓ゼロの政策と小規模家族農家を支援する政策。飢餓人口は急速に減少し、2014年、国連の飢餓マップからブラジルは消えた。 “ブラジルの反飢餓政策の復活:ホームレス運動による「連帯キッチン」が政策に” の続きを読む

根を張るブラジルのアグロエコロジー、一方、日本の統一地方選は?

 政府が人びとの望まない政策をどんどん進めていく。こんな時にどうしていけばいいのか、とても参考になる取り組みがある。それがブラジルのアグロエコロジー運動。アグロエコロジーとは生態系を守り、その力を活用する農業に関する科学であり、そうした食のあり方をめざす農家の実践や市民の社会運動でもある。
 これまでブラジルのアグロエコロジーを支えてきた柱は学校給食(PNAE)と食料調達政策(PAA)だった。政府が買い付けを保障するから、農家が現金収入を確保できる。市場に買い叩かれなくて済む。でも、極右大統領が誕生し、これらの予算を大きくカットした。新型コロナウイルスの蔓延による失業、コメや小麦など輸入穀物の暴騰という中、この政策により、飢餓層が急増する。そして、この極右大統領は空前の勢いで農薬を新規承認。現在、ブラジルで承認されている農薬の半数を占めるまでになった。海外では禁止されている農薬が続々と承認された。種苗企業は遺伝子組み換え企業によって買収され、大豆やトウモロコシ、コットンなどは遺伝子組み換え種子ばかり。
 このような逆境の中でも、ブラジルのアグロエコロジー運動は地域に根を張ることで生き延びた。地方自治体が予算を出し、地域のアグロエコロジー生産をバックアップする、そんな例がブラジル全土で487存在するという(1)。その例を1つあげてみよう。 “根を張るブラジルのアグロエコロジー、一方、日本の統一地方選は?” の続きを読む

食料危機で日本はどう変わるか?

 なぜ、日本のメディアは大騒ぎしないのか。かつてない危機が日本に迫っている。その危機は他の先進国には存在していない。先進国の中では日本だけだ。食料危機である。ファイナンシャルタイムズはこう警鐘を鳴らす。「以前からその兆候はあったが、日本は一時的な現象と考えて行動を起こさなかった。今からコースを変えるには遅すぎるかもしれない」(1) “食料危機で日本はどう変わるか?” の続きを読む

国会閉会前に緊急の食料政策を!

 国会の会期が終わりに近づいてきた。だけど、何を決めたのか? この世界の多重危機の同時進行の時に政治が果たす役割はとても大きい。でもそれが伝わってこない。
 このまま行けば何が起こるか? 食料高騰、収入減る一方の人びとの中で栄養不良状態が深刻化、さらには日本列島の人びとを支える農業が崩壊する大規模な離農が止まらなくなる。それにさらに深刻化する自然災害や感染症が追い打ちするかもしれない。 “国会閉会前に緊急の食料政策を!” の続きを読む

食料危機から食のシステムの転換へ

 食料危機が待ったなしで迫っている。化学肥料の高騰が止まらない(1)。問題は価格の高騰に留まらない。お金を出しても必要な量を確保することが見込めない状態になりつつある。現在の世界の食のシステムは来年にかけて大きな危機に陥るのは避けられないだろう。
 特に日本でまず心配なのは今後、農業を続けてくれる方たちが大幅に減ってしまうのではないかということだ。ただでさえ、労は多く収入は少ない状態なのに、これに生産コストが急激に上がってしまったら、継続は不可能になってしまう。 “食料危機から食のシステムの転換へ” の続きを読む