多国籍企業による食のシステムの乗っ取り

 タネから流通まで、そして食のあり方まで巨大企業が乗っ取る、国連を乗っ取り、各国政府の政策まで決めていく。今、そんな動きがはっきり見えてきた。遺伝子組み換え企業だけでなく、今やAI、ビッグデータ、インターネット企業、金融セクターが結びつき、この乗っ取りが動き出している。
 国連は世界食料危機を契機に、食の政策については農民団体、市民組織に開かれた制度改革を打ち出し、小規模家族農業と生態系を守るアグロエコロジーの2つを柱する政策に大きく転換していた。世界で有機農業、化学肥料や農薬への規制が大きく進んだ。この流れを大きく変えるために、遺伝子組み換え企業=化学企業が中心となり、大きな企てをしている。
 バイオテクノロジー、デジタル化、金融化の3つがそれを可能にする背景。そしてこの3つは相互に強め合う。種子の遺伝情報はデジタル化され、バイオテクノロジーとビッグデータ解析が一体化する。世界の農地はデジタル監視され、その情報をもとに利益が絞り出される。かつてない金額の資本がこれらの食を仕切りだしている。

 これは何をもたらすか? 小規模家族農家が土地を失い、寡占企業が農地を集積し、ますます食の生産が牛耳られる、飢餓人口は拡大し、化学物質が土に投入され続け、気候変動は激化を続け、生物はさらに絶滅の途を早めるだろう。そんなのSF? いやもうすでに始まっている。
 今年9月ニューヨークで国連食料システムサミットの開催が予定されている。このサミットは2030年までに到達すべき持続可能な開発目標(SDGs)のためのものとして設定されているが、その準備はこれまでの国連の取り組みを無視して、完全に巨大企業に乗っ取られたものになった(1)。

 それに対して昨年2月以降、国連に関わってきた農民・市民団体が抗議活動を行っている。その団体の構成メンバーは3億人に及ぶ。ところが国連はその批判に耳を傾けるどころか、FAOはモンサント(現バイエル)や住友化学などの6社の農薬企業からなるCropLifeとのパートナー契約を昨年10月に結び、家族農業とアグロエコロジー振興というFAOの方針とはまったく逆の動きに出てしまっている。


 
 世界の市民組織はこの国連食料システムサミットのボイコットを表明し、対抗サミットの開催を宣言した。食料システムに関するグローバルな人びとのサミット(Global People’s Summit on Food Systems)が9月に開催される(2)。


 
 そのための準備プロセスが本格化している。4月22日のアースデーにはそのオンラインイベントが開催され、アジア、アフリカを中心に農民の声、農民・市民組織の分析・懸念が共有され、課題が討議された(3)。その中でこの寡占企業による食の乗っ取りの勢力の実態が明らかになった。
 その中心にいるのはビル・ゲイツ。ビル・ゲイツはコンピュータのOSを独占することで巨大な利益を得た。今、彼は社会のOSである食を握ろうとしている(食だけでなく、医療もだが)。国際農業研究協議グループ(CGIAR)は世界の種苗を収集し、世界の広範な地域に影響力を持つ世界最大の研究機関となっているが、そのCGIARに最大の出資をしているのがビル・ゲイツ。CGIARの役員もビル・ゲイツ財団関連の人間が務める。そして、彼は世界各地の農地を集積しており、米国でも彼が最大の地主となっている。

 資本の垂直統合、つまりタネから生産、流通まで統合する。そしてその技術を通じても遺伝子工学からAI、ドローンやロボットによる制御含めて支配を強める。こうした農業が自由にできるように各国政府に法制度を変えさせる。見事にそのプロセスは日本でも進みつつある。種子法は廃止され、種苗法は改正され、農地法も変えられ、以前は不可能だった企業が農地を買うこともできるようになろうとしている。そして、農産物検査制度も変えられる。ますます寡占企業のための環境が整っている。
 
 多国籍企業の横暴によって、気候危機も、生物大量絶滅の危機に私たちは曝されてきた。その危機対策の政策はことごとく妨害されてきた。でも国連レベルではこのプロセスが2010年頃から逆転し、この危機を克服する流れが生まれていた。しかし、9月の食料サミットはそれをさらに再逆転させようとするもの。この動きをどう止められるか、人類の生存にも関わる大きなものになると言わざるをえない。
 
 日本で有機農業25%という目標が突然立てられて大きな話題となった「みどりの食料システム戦略」だが、これは明らかにこの国連食料システムサミットの流れから作り出されたものだろう。
 実質的な目標となる2030年有機農業の目標はわずか1.575%でしかない。世界の国が学校給食などの公共調達の中で有機生産の割合を5割などにする目標を立て、買い取る姿勢を出すのに対して、日本では市場任せであり、有機農業に対してはほぼゼロ回答な戦略になっている。
 一方で、「ゲノム編集」やRNA農薬などのバイオテクノロジー開発には多額の税金が充てられていくことになるだろう。世界で規制が強まる遺伝子組み換えや農薬で壁にぶつかった化学企業の救済策に使おうというものだ。そして、その戦略を国連食料システムサミットに持ち込み、世界化するのが日本政府の目論見であり、その背後には住友化学やビル・ゲイツがいるのは間違いない。
 
 アグロエコロジーかバイオテクノロジーか、今、そんな分岐点にいる。この対抗サミットに連帯して動いていく必要がある。

(1) 国連食料システムサミットに反対する科学者たちの署名
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/5202847156408739

(2) Global People’s Summit on Food Systems
https://peoplessummit.foodsov.org/

(3) #TheFoodWeWant Global Day of Action Against Corporate Control of Food Systems
https://foodsov.org/thefoodwewantgda/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA