RCEPと種苗の知的財産権: UPOV体制は種苗産業を萎縮させる

 改正種苗法によって1975品種が日本から持ち出し禁止になった、と官報に載る。あたかもそれで効果を上げるように各紙も報道するが、根拠はない(1)。そしてRCEP協定(地域的包括的経済連携協定)の国会審議、14日で東大大学院の鈴木宣弘さんが参考人として陳述されるとのこと。午後には院内集会(2)。世界最大の自由貿易圏を作るというのだから十分な審議が必要のはず。種苗の知的財産権に関わる面から問題を見ておきたい。

 日本政府は韓国政府と共に、RCEP参加国にUPOV1991年条約の批准を義務化しようとした。UPOV1991年条約とは種苗の新品種の知的所有権を優先させる国際条約。要するに種苗法改正を国際化するような条約。TPPでは義務化されているが、それをさらに広範な国が参加するRCEPでも義務化しようとした。しかし、交渉参加国のほとんどが反対し、義務化は採用されなかった。一安心といいたいのだが、公開された条文を見ると、義務化こそ書かれていないものの、UPOVに即した種苗政策を取ることが求められており、今後、アジア諸国はUPOV体制に組み入れられようとする一歩となってしまうことが危惧される(3)。
 
 なぜ、このUPOV体制が問題なのか? 一言で言えば、独占を生み、農業の発展を阻害するからだ。
 このUPOVともう1つ、問題になるのが種苗への特許。UPOVが扱うのは種苗特有の知的財産権である育成者権、特許は育成者権よりも強い権限を与える。たとえば遺伝子組み換え種子にはこの特許が認められている。でも種苗などの生物に特許を認めることには反対が増えている。
 インド政府は生命への特許を認めていない。欧州でも通常育種で育てられた種苗には特許を認めない判断を下している。モンサントは南米アルゼンチンにも強引に遺伝子組み換え作物の栽培を認めさせたが、その時に、遺伝子組み換え種子への特許制度を作らずに見切り発車してしまった。その結果、アルゼンチンでも遺伝子組み換え種子の特許は認められていない。だからアルゼンチンでは遺伝子組み換え種子の自家採種が堂々とできる。
 毎回お金を取るつもりだったモンサント(現バイエル)は種苗法改正を求めるが、南米で強大な権力を持つ大地主が反対に回り変えられない。仕方なく、集荷を行う穀物業者に集金してもらうことを依頼する(種子購入証明ない場合に集荷でその料金を払わせる)もあっさり拒絶される。インドでも種苗業者たちはロイヤリティを払わずに増殖してモンサントは告訴したが、合法と判断されている。モンサントの種子を増殖したら、モンサント警察が、と信じられているかもしれないが、それはそういう法律がある国の場合の話。世界中がそうなわけではない。
 
 だから、最初の遺伝子組み換えで失敗した彼らは世界中で同じ厳格な種苗法を作らせ、自分たちの知的財産権を守らせる要求を強めていくことになる。TPPに際しても、モンサントや住友化学も加盟しているロビー団体BIOはUPOVの義務化を要求し、TPPではそれが実現している(だからこそ、チリはTPPへの参加に長く抵抗している)。旧来の遺伝子組み換えから新しいバージョンである「ゲノム編集」に代わる際にこのUPOV体制の世界化が求められている。
 
 日本政府は種子法廃止や種苗法改正に際して突然、このUPOV体制の強化を図ったのではなく、かなり前からアジア全域をUPOV体制にする圧力を各国に加えてきた。日本政府はアジア諸国の種苗政策を添付の図のように見なしている(4)。つまり日本で改正された種苗法と同等なものがアジア中に押しつけるということだ。

 

 でも、新品種の育成者の権利を守るためには種苗法改正やUPOV体制は必要なのでは、と考えるかもしれない。このような政策を続ければ果たして日本は新品種を続々と作ることができるのか? 不可能だろう。このUPOV体制は種苗の多様化を生み出すどころか、逆に独占が進み、多様な品種は失われていくだろう。小規模な種苗会社は潰れるか、大企業に吸収される。実際にこうした政策を進めてきた日本でだけこの10年で新品種の数は激減しており、同様に知財権を強化し続けている米国も他の国に比べ、低迷している(5)。


 
 この問題はより多様な在来種が存在するアジア太平洋地域にとってはより深刻である。商業流通から排除され、その多様性が急速に失われることが危惧される。かつてアイルランドでは多様性を失ったために主食の位置にあったジャガイモがウイルスによって収穫が壊滅的となり、人口が半数近くに減る悲劇をみた。その後のアイルランドを救ったのは中南米が保持していた多様なジャガイモの存在だった。今、存在するアジア太平洋の種苗の多様性、これを失った時、私たちに何が起きるか想像してみればいい。
 
 日本政府の担当者からすればRCEPは遅れたアジアに進んだ政策を持ち込んで、日本の種苗産業の市場を作ることができるものと考えているだろう。しかし、実際はこの地域の食の未来、社会の未来をぶち壊すことになる。全体を見ることができない愚かさ。
 
 国際的な運動をネットワークするNGO、GrainはこのUPOVとは農民の種苗の民営化(企業による私物化・独占化)であり、巨大な盗賊行為と批判する。その問題をアニメーションビデオにまとめ、ブックレットも作成して配布して、このUPOVとの闘いの重要性を訴えている(6)。
 UPOVに代わる種苗のあり方、種苗育成者との共存の方法の模索も始まっている。そして、地域の多様な種苗を守る活動は今、急速に世界中に拡がりつつある。
 
 残念ながら日本では種苗法改正に疑問を投げかけたり、RCEPが持つ問題に言及するメディアはまずみかけない。日本の言論空間が政府の主張のコピーだけに満たされ、世界で動いていることがあたかも存在しないかのようになりつつある。これはとても危険な方向であると言わざるをえない。
 
 RCEPへは参加すべきでないし、それは目先の利益だけで考えるべきではない。そして、改正種苗法によっても、問題は解決しないばかりか、さらに事態は悪化するだろう。それを変えるために何が必要か、考え、行動していくする必要がある。
 


(1) この1975品種が何を差すのか、農水省のサイトを探しても見当たらない。官報では見ることができるものの、この官報が使いにくいことこの上ない。まとめてダウンロードできず、ダウンロードしてもテキスト化されていないので、見るだけ。一覧リストを作ろうと思ったら、打ち込まないといけない。
さすがデジタル後進国。官報をコピペなどさせないのです。orz
https://kanpou.npb.go.jp/20210409/20210409g00083/20210409g000830033f.html
 
(2) 4月14日午前10時〜#RCEP 批准阻止をめざす国会前抗議行動
https://twitter.com/shokkenren/status/1381496044370886660
 
4月14日午後1時30分〜4時
院内集会「RCEP協定と グローバリズムを問う!」
https://nothankstpp.jimdofree.com/2021/03/21/%E9%99%A2%E5%86%85%E9%9B%86%E4%BC%9A%E3%81%AE%E3%81%94%E6%A1%88%E5%86%85-rcep%E5%8D%94%E5%AE%9A%E3%81%A8-%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0%E3%82%92%E5%95%8F%E3%81%86/
 
PARCによる包括的なRCEP分析レポート
http://www.parc-jp.org/teigen/2021/rcep.html
 
(3) 添付画像参照 外務省
条文全文は https://www.mofa.go.jp/mofaj/p_pd/dpr/page24_001289.html
 
(4) 添付画像参照 農水省資料
元データは https://www.maff.go.jp/j/council/sizai/syubyou/12/pdf/data3.pdf
 
(5) 添付画像参照 出典UPOV
https://www.upov.int/portal/index.html.en
 
(6) 国際NGO、GrainによるUPOVの問題を描くアニメーションビデオ
https://grain.org/en/article/6616-upov-animation-the-great-seed-robbery
 
同じくGrainによるUPOV問題のブックレット UPOV: the great seeds robbery
https://grain.org/en/article/6644-booklet-upov-the-great-seeds-robbery

先日のFacebookへのRCEPに関する投稿。RCEPがなぜ問題か?
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/5184431561583632

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