急ピッチで進む「ゲノム編集」魚流通に向けた調査会

 日本政府が「ゲノム編集」食品の普及に躍起となっている。政府が戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で税金をつぎ込んでその開発をプッシュした「ゲノム編集」トマトの種苗の一般市民への配布が始まろうとしている。次に目論むのが「ゲノム編集」魚なのか、厚労省は2月10日に最初の調査会を開いたと思ったら、3月17日は3回目がすでに行われている(1)。なぜ、こんな急ピッチなのか? その内容も前の投稿のようにとんでもない内容のもの。こんな形式的な調査だけで日本で「ゲノム編集」魚を流通させようというのだろうか?

日本は農業以上に漁業では失政が続いていると言わざるを得ない。海に囲まれた日本は水産業が盛んで、1980年の漁獲高は世界一だった。世界ではその後も漁獲量は増え続けるが日本は逆に減り続けている(2)。その間に漁業従事者の数は3分の1に激減してしまい、高齢化も著しく、このままでは漁村が消えていく。
 

日本の漁業生産量の推移。1980年代を頂点に下り続けている。世界とは真逆。
グラフは水産白書より

世界では漁獲高は上がり続けている。養殖の拡大が大きいが、しかし養殖漁業の拡大には深刻な問題が存在する。
グラフは水産白書より
日本の農業の圧倒的担い手は中小の漁民である。その状況はますます深刻になっている。収入は限られ、高齢化が進み、後継者も見出すのが難しい。必要なのは小規模漁民がやっていける政策であるにも関わらず、政府はそちらを見ていない。グラフは水産白書より

 こうした事態に対して、政府は養殖漁業に注目し、短期間に品種改良ができる技術として「ゲノム編集」が中軸に据えられようという政策を出してきたということだろう。養殖漁業は世界で拡大を続け、今後、天然の魚の漁獲高を超えると考えられている。それでは養殖漁業は進むべき道だろうか?
 
 農業に自然栽培や有機栽培もあるように、養殖漁業もさまざまなものがあり、自然栽培の漁業版とも言えるような養殖も存在する。しかし、今、進められている産業的養殖漁業は畜産におけるファクトリーファーミング(工場式畜産)と変わらない。狭いところに閉じ込め、遺伝子組み換え大豆などを飼料に使い、抗生物質を大量に使う。そのため海域を汚染し、海洋生物の生態に深刻な影響を与える。カナダでは鮭の養殖場が作られた地域で天然の鮭の数が急速に減少していることを告発するドキュメンタリーも作られている(3)。最近の業界団体の調査ではスコットランドの鮭は致死率が2002年に3%だったものが2019年には13.5%に上がっており、鮭養殖による汚染により、2013年から2019年までに世界全体で500億ドル(約5.4兆円)の損害となっているという(4)。
 
 現在の世界の汚染のほとんどすべてが海に注ぎ込む。工場からの廃液も、プラスティックゴミも、原発から出される放射性物質も。二酸化炭素の過剰で海が酸化する。化学肥料が流れ込み、酸素が失われ、海が死につつある。さらに汚染を進める養殖を拡大すればいいという話ではないことがわかるだろう。海が生きられない環境になったら漁業は続けられなくなるのだから。現在の日本ではさらなる困難がある。養殖のために必要な餌代が上がり続けるからだ。日本の食のシステムを根本から見直す必要がある。
 
 そもそも魚の品種改良の歴史は浅く、農業では1万年以上、さまざまな品種改良がなされてきたが、魚はわずかこの50年に過ぎない。魚の多くは野生であり、遺伝的多様性も農作物と比較すると格段に高い。しかし、海洋生物に遺伝子操作を加える動きが始まっている。農作物以上に魚への遺伝子操作はバイオハザードを作り出す危険が高い。にも関わらず、米国のAquaBounty社は短期間に巨大化する遺伝子組み換え鮭を作り、多くの反対を無視して、この4月にも米国での販売が始まるとみられている。ただし、反対は多く、メジャーなスーパーは不売を宣言している(5)。果たして遺伝子組み換え鮭はどこに流れるのだろうか?
 
 そんな中で、今回の日本政府の「ゲノム編集」魚の話がある。「ゲノム編集」トマトと同様に税金をつぎ込んで研究開発して、民間企業を作るという話にどうせなるのだろうと思っていたら、その動きはすでに始まっていた。京都大学の研究者が「ゲノム編集」魚を売る民間企業リージョナルフィッシュ株式会社を京都に作っている(6)。今後、「ゲノム編集」魚養殖の実現に向けて動くのだろう。しかし、一体、「ゲノム編集」魚は誰が食べるのだろう? 米国人の多くも食べないだろう。
 
 漁業を支えているのは世界も日本も大規模集約型の漁業ではなく、小規模家族漁民だと言われるが、日本の政策はそれをどう扱ってきただろうか? そして今回の「ゲノム編集」魚はそうした小規模漁民の助けになるだろうか? 「ゲノム編集」魚の養殖で利益が上げられるとしたら巨額の施設を投資できる民間企業だけ。
  
 農水省が発表した「みどりの食料システム戦略」でも養殖漁業の急拡大が求められ、その中で「ゲノム編集」技術の利用が中核にされていく可能性がある。しかし、そうなれば、この政策は、現在危機に陥っている日本の漁村・漁業を救う道になることにはなりえず、一部の民間企業を利するだけで、むしろ、日本の漁業をさらなる窮地へと追い込む失策にならざるをえない。
 政策の根本的な見直しが今、求められている。それなしに、このまま進むのであれば日本は本当に滅亡の道を辿るしかないのではないか。
 
 
(1) 3回の「ゲノム編集」魚に関する厚労省の調査会の資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-yakuji_148834.html

(2) この減少に乱獲規制が強まったことは大きいが、低迷から抜け出せていない。海洋保護区などの積極的施策もない。
添付の画像参照のこと(令和元年度[ママ]水産白書より)
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/R1/index.html

(3) 養殖問題を考える時にぜひ見てほしいのがSalmon Confidentialというドキュメンタリー。野生の鮭が海と陸を循環させる大きな存在なのだが、その鮭が養殖の拡大で激減している。そのさまが視覚的にわかるものになっている。
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/1210634012296760

(4) Global salmon farming harming marine life and costing billions in damage
https://www.theguardian.com/environment/2021/feb/11/global-salmon-farming-harming-marine-life-and-costing-billions-in-damage

ガーディアン紙は2017年にも鮭の養殖を海における化学軍拡競争として批判する記事を掲載している。
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/1770069339686555

(5) Foodservice giants reject AquaBounty’s genetically engineered salmon
https://www.nationalfisherman.com/foodservice-giants-reject-aquabounty-s-genetically-engineered-salmon

US Federal Court Rules FDA Approval of GMO Salmon Unlawful
https://sustainablepulse.com/2020/11/05/us-federal-court-rules-fda-approval-of-gmo-salmon-unlawful/

NASDAQ:AQB Investor Notice: Investigation over Potential Wrongdoing at AquaBounty Technologies, Inc. – Press Release – Digital Journal
https://announce.today/home/announce/VhbACvSTuwvJI8ctl94o
遺伝子組み換え鮭を開発したAquaBountyには数々の黒い影がある。米国農務省(USDA)の不正資金を得たこと、さらに最近でも。今年1月に13.32ドルだった株価は3月3日には6.41ドルに下落。

After A Delay, AquaBounty’s GMO Salmon Available To U.S. Consumers In April
https://www.wboi.org/post/after-delay-aquabountys-gmo-salmon-available-us-consumers-april#stream/0

(6) 京大ベンチャー企業によるゲノム編集魚の商業化の動き
http://www5d.biglobe.ne.jp/~cbic/journal/no233/head.html

リージョナルフィッシュ株式会社
https://regional.fish/
 3月17日の厚労省の調査会で「ゲノム編集」魚のプロモーション的プレゼンをした京大大学院の木下政人氏はこの会社の取締役である。これは明らかな利益相反では? 税金で開発して、それを厚労省で政策にして、自分はそうやって作った会社の取締役に座る。いい国ですね、そうした人にとっては。

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