「みどりの食料システム戦略」とRNA農薬

 2050年までに有機農業を25%にするという目標を日本政府は立てた。「みどりの食料システム戦略」である(1)。有機農業の目標を立てたことは重要。もっと押し上げなければならない。しかし、この戦略には2つの大問題が隠されている。
 1つは化学農薬や化学肥料による農業からバイオテクノロジー、遺伝子操作技術による農業に転換しかねないこと、もう1つは日本だけ市場原理主義になっていること。
 気候変動の激化だけでなく、生態系の崩壊が急速に進んでおり、有機農業・アグロエコロジーを急速に転換することは今後、不可欠であり、不可避の政策にならざるをえない。今回の戦略はその危機を利用して、この転換期を化学農業から有機農業・アグロエコロジーへの転換ではなく、バイオテクノロジー農業への転換に使おうとしている。まず、それが最初の大問題。詳しく見たい。
 
 2050年までに化学農薬の使用量50%削減目標。世界で日本だけが規制緩和を続けてきたネオニコチノイド系農薬を転換させるという。大転換だ。いいことのように見えるが、但し書きに注目。「リスク換算で50%」、つまり「安全な」農薬を開発して、それに移行させればいいことになる。でも果たして安全な農薬は存在しうるか? その新規農薬とは何なのか? それはRNA農薬。

 RNA農薬とは何か? 一言で言えば害虫に遺伝子組み換えを引き起こす農薬。RNA農薬はRNAi (RNA Interference、RNA干渉)を使い、害虫や病原菌の遺伝子に変化を引き起こし、殺す。
 すべての生物はDNAの情報をRNAに写し取り、そのRNAから新しいタンパク質を合成する。言ってみればDNAはコンピュータのプログラム。それ自身はディスクに保存されていて書き換えられない。そのままだと動かないので、一時メモリー空間に転写される。それがRNA。それを使ってプログラムは実行される(タンパク質が作られる)。システムを落とせば、一時メモリー上のものは消えてしまうように、RNAも一時的な存在。とても不安定で長く続かない。だからRNA農薬も環境中にそんなに残らないから安全だ、化学農薬の被害をなくすためにもRNA農薬への移行を、という。しかし、これはこれまで特定の生物の細胞の中で行われていた遺伝子組み換えを自然界で大々的にやろうというもの。果たしてRNA農薬が安全かというと、すでに多くの懸念が表明されている(2)。DNAをぶち込む遺伝子組み換えよりも安全だというのだが使い方によっては五十歩百歩になる可能性がありそうだ。

 化学農薬では耐性がすぐできて、効力が落ちる。その結果、使用量がすぐに増えてしまって環境が破壊される。次から次へと化学農薬は作られてきたがもはや限界に来ている。だからこそ今、世界では有機農業・アグロエコロジーが進んできているのに、強引にこの変化をバイオテクノロジーの独占技術に落とし込もうとしている。
 それを進める中心的存在がビル・ゲイツであり、バイエル(旧モンサント)などの多国籍企業。彼らは今年9月の食料システムサミットで国連をそちらの動きに誘導しようとしている。国連は2010年頃から急速にアグロエコロジーと小規模家族農業の推進に転換したのだが、それを多国籍企業が国連を取り戻そうという動きだと言える。それに合わせて、日本政府もそれに合わせて異常な急ピッチで政策を転換しようとしているというところだろう。それはとても危険極まる方向だといわざるをえない(3)。

 これを本来の問題に戻す必要がある。環境や健康が破壊され、感染症が蔓延する中、そして、小規模農家が姿を消していく中、アグロエコロジーを基軸に小規模家族農家をベースとした農業を進めることで環境、健康、地域の経済を回復することが可能であることが示され、世界で実際に進んできた。20年で世界の有機市場は少なくとも5.5倍近く広がっている。その食のシステムは十分、経済的にも維持可能であることが実証され、急激にその運動は広がってきた。日本でもそれをやらなければならない状態になっており、それは日本政府も認めざるをえない状況になっている。

 世界ではどんな方法で有機農業・アグロエコロジーが拡大しているのだろうか? その中心に政府の施策があることに注目したい。公共調達政策だ。政府や地方自治体が学校給食などに農産物を買い上げる、その方針で有機農産物を優先する方針を確立することで、有機農業が底上げされる。
 それでは今回のみどりの食料システム戦略の中で、日本政府はどのような有機農業拡大戦略を出しているだろうか? 驚くべきことに各国が行っている公共調達に関わる方針が出ていない。消費者を啓蒙して市場拡大させる、あとは既存の政策を並べただけ。これが施策? これまで通り、市場まかせであれば日本だけ有機が広がらない現状は変わらない。
 こんな無策で、どうやって現在の40〜50倍に有機農業の生産を拡大できるというのか? その認識にも大きな問題がある。政府が強調するのは革新的新技術開発だ。この革新的新技術とは何か? 日本では有機農業の技術開発が進み、生態系の力を活用して、手間を減らしつつ、収穫を維持できる有機農業技術がすでに確立している。その技術を普及させることで有機農業はすぐに拡大できるのに、それはスルーして、新技術が必要だという。これを2040年までに開発して、それ以降、有機農業は劇的に増やすという計画になっている。その技術は何か?
 
 曖昧にしか書かれていなのだが、結局、RNA農薬、バイオテクノロジーを駆使した新品種開発、ロボット、AIなどからなる技術になってしまうのではないか。なぜ有機農業・アグロエコロジーで開拓された技術を新技術として受け入れないのか?
 結局、もう耐用年数が切れ、窮地に陥る化学企業をバイオテクノロジー・アグリ総合巨大企業として再生して、成長させていく、というシナリオが見えてくる。巨大バイオテクノロジー企業の技術がその軸であれば、さらなる企業独占の食のシステムにならざるをえない。消費者や生産者の権利もこれまで以上に奪われてしまう。
 
 この戦略に潜む問題をとらえつつ、本質的な問題解決の可能な有機農業・アグロエコロジーを進める本道に戻さなければならない。今、何をなすべきだろうか?
 
 地方自治体は今こそ、みどりの食料システム戦略に関して、地方自治体での公共調達の有機化のための支援政策を政府に要求すべきだ。学校給食を有機に、という声を全国から!
 実際に地域の食の確立は今、急務だ。日本の食料自給率の低さをあらためて言うまでもないだろう。日本は今、食を作れない国になりつつあり、地域での取り組みなしであれば、みどりの食料システム戦略は有機を輸出に回すだけになるだろう。有機拡大が輸出頼みというのはあまりにありえない。
 
 もう1つは「ゲノム編集」などを含む遺伝子操作、バイオテクノロジーによる偽の解決法を許さないこと。「解決策」と称されるものが新たな問題を作り出している。遺伝子組み換え作物が環境を破壊し、環境破壊対策として新たなバイテク製品が導入されるが、それもまた新たな問題を作り出す。この悪循環の中で環境も健康も破壊されるが、企業は巨大な利益を収める。この偽の解決策に巨額の税金が注ぎ込まれている。それを止め、本来の解決策、有機農業・アグロエコロジーに戻させること。
 
 スイスは遺伝子組み換え作物の国内での耕作をモラトリアムで禁止している。そして、今、そのモラトリアムの範囲を「ゲノム編集」に拡げる方針だという(4)。国単位で「ゲノム編集」を禁止する最初の国になるのかもしれない。この動きは世界で広がるだろう。ベネズエラ、ペルー、コロンビアでも続くかもしれない。
 そして、今、日本でも遺伝子組み換え作物を栽培させないGMOフリーゾーンが広がっているが、このGMOフリーゾーンは遺伝子組み換えだけでなく「ゲノム編集」も含む形で取り組まれていくことだろう。
 一方で「ゲノム編集」トマトの種苗配布が、やめてほしい、という人びとの声を無視して始まる。それに対して、種苗を生産する人たちの中で、自分たちの種苗は「ゲノム編集していない」というマークを貼る動きも動き出そうとしている。遺伝子操作されない種苗を守ることはかつてないほど重要になってきている。
 日本でも世界でも新しい動きが続々と生まれている。こうした動きを少しでも拡大させてゆきたい。

(1) 農水省:みどりの食料システム戦略~食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現~
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/team1.html

(2) FOE: RNA農薬についての問題をまとめた33ページのレポート(英語)。
Gene-Silencing Pesticides: Risks and Concerns
https://foe.org/resources/gene-silencing-pesticides-risks-and-concerns/

RNA農薬によるウイルスの拡散などの危険を指摘する研究
Should dsRNA treatments applied in outdoor environments be regulated?
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160412019306038

(3) 食料システムサミットについての投稿
https://www.facebook.com/InyakuTomoya/posts/5081085418584914

(4) スイスの遺伝子組み換えモラトリアムの拡大について(英語)
https://twitter.com/criticsciencech/status/1369211026579808262

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