惨事便乗型資本主義が食を奪う

 この新型コロナウイルスの蔓延はまさに惨事便乗型資本主義がその姿を現す時。1%の投資家はこの間にさらに富を集積し、笑いが止まらないに違いない。
 外食の低迷によって米価が暴落している。このままでは地域によっては60kg1万円という破壊的な価格になるかもしれない。小規模農家での生産価格は1万7000円とも言われるから作れば作るほど大赤字になる。これは大恐慌にも匹敵する大惨事。米国ではかつて大恐慌に際してニューディールが発動され、農家の収穫を政府が買い上げ、農家を支えた。失業者はその配給によって命をつないだ。今や、そうした政策に出なければ農村は潰れてしまう。米国にそうした政策があるのに、日本にはない。これでは日本では農業を続けられなくなって、農家は激減してしまう。

 2015年から2020年の5年で農家は175万7000人から136万1000人と、40万人近く、2割を超す減少となったが、このままでは根と、減少が加速してしまうかもしれない。農水省はすでに今年の米作は昨年よりも1割近く低い生産量を基本指針としている(1)。食を作る人がいなくなれば社会は崩壊する。

 ところが菅内閣は余剰米を買い上げることを拒否している。貧困・飢えに苦しむ人も出ており、備蓄米を全国で活用できればそうした人たちの生活も支えられるのに、そうした政策に関心を示さない。農業政策は輸出促進政策ばかり。ごくわずかな企業とごく一部の農家が潤うかもしれないが、肝心なのは地域の食であり農業だが、それは素通り。

 個人的なことになるが、祖父母が無謀な開発計画によって水田を奪われ、野菜しか作れなくなって、貧困に苦しんだ様を見てきたので、米だけよければいいかのように米の政策ばかり気にしている人たちのことはあまり好きになれないのだが、一方で、米の生産はやはり重要。米・稲は日本が種子から完全自給できているほとんど唯一の作物であり、日本の農業の屋台骨。でもこの屋台骨が折られようとしている。
 普通の家族農家が稲作を続けられないような状況が生まれようとしているのになぜ、政府は動かないのか? なぜならこれはボロ儲けになるからだ。独立した生産者が元気であればボロ儲けはできない。生産者は売り先を選べる。だけど、相場が暴落して、生産者が道に迷えば売り先を囲い込む力のある民間企業がボロ儲けができる。

 実は種子法を廃止して、地方自治体の公共種苗事業から民間企業に移すことにしても、その移行は遅遅として進まなかった。価格が高くて種類も選べず、収穫しても業務米として安くしか売れない民間企業の種苗を買う農家は少ないからだ。だけど、ここに来て、新型コロナという惨事に便乗して、一気に民間企業が全面展開する道が開けてしまう。種苗・化学肥料・農薬の3点セットを押しつけ、食の決定権は生産者や消費者から民間企業に移る。そうなってしまえば、いずれは「ゲノム編集」なども入ってくるだろう。

 そんなことを防ぐためには何が必要だろうか?

 何より地域の農業を支える政策を打ち出すことだ。新型コロナウイルス対策の一環として米を大規模に買い上げ、価格を支え、そして備蓄米を各地域の子ども食堂などを通じて活用することなどがすぐ考えられるだろう。選挙もあるのだから地域を支える政治を求めるにはいい時期だ。どの国でも大なり小なりやっている政策なのに日本だけすっぽり抜けている。これを普通にするだけで、農業の状況も困窮者の状況も上向く。農家を支える政策は反貧困政策の基盤となるのだ。すべての政党の政策に取り込まれるべき政策だろう(2)。

 そして、一方で地域で学校給食などで可能な限り有機に近い栽培を実現したものを一定水準の価格(生産費を十分上回る)で買い上げる政策を確立して、有機化を進めると同時にその農家を支援する政策を確立すること。

 医療従事者もすぐには増やせないが、農家も同様。本当にこのまま政府の無視を放置していたら、日本の食と農はとんでもない事態に陥る。この問題は決して農家だけの問題ではない。日本の消費者の権利が奪われるという問題であり、日本社会全体のものなのだ。

(1) 21年米適正生産量679万t 50万t減「衝撃的数字」-農水省
https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2020/10/201019-47157.php

(2) 日本の食と農が危ない!―私たちの未来は守れるのか(下) 東京大学教授・鈴木宣弘

日本の食と農が危ない!―私たちの未来は守れるのか(下) 東京大学教授・鈴木宣弘


 この中で鈴木宣弘氏は「(米国で)なぜ、消費者の食料購入支援の政策が、農業政策の中に分類され、しかも64%も占める位置づけになっているのか。この政策の重要なポイントはそこにある。つまり、これは、米国における最大の農業支援政策でもあるのである。消費者の食料品の購買力を高めることによって、農産物需要が拡大され、農家の販売価格も維持できるのである」と指摘する。まさに農業政策が社会の根幹の政策、反貧困政策なのだ。
 たとえばブラジルのホームレスの人びとの運動団体(MTST)は貧困問題の解決策としてアグロエコロジーを掲げる。貧困問題を解決しようと思えば、農業問題は避けて通れない。コロナをめぐる騒動でなぜ、こんな米価の暴落問題が日本で置いて行かれるのか、不可解であるし、この解決は本当に急務である。

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