改正種苗法施行の前に

 改正種苗法施行前に考えてみたい。今後の食がどう変えられようとしているか? まずハイテク企業の動きを注目する必要がある。ビル・ゲイツは「ゲノム編集」を含む遺伝子組み換え技術に莫大な投資を行い、種苗をOSになぞらえて、マイクロソフトがOS独占で巨大企業に成長したように、食を次のターゲットとしようとしている。モンサント(現バイエル)はビッグデータ企業を買収し、アマゾンが生鮮品まで手をかけ、富士通までもが海外で農業投資を本格化している。キーワードは技術による食のシステムの統合(=囲い込み)。巨大企業が食を種苗から流通まで把握しようとしている(1)。

 種苗法改正はこの絶妙なタイミングで、民間企業の知的財産権の強化を、中国や韓国への種苗の流出というスケープゴートを挟み込むことでスルリと滑り込ませた。かつてのような目に見える戦争は起きないかもしれない。かつての戦争が植民地の領土争いが根本にあったのに対して、ここでは知的財産の囲い込みであり、自然資源の囲い込みの争いであるからだ。

 22日、農水省食料産業局知的財産課による改正種苗法全国Web説明会が行われた(2)。国会で論破された説明が繰り返されたが、果たして改正種苗法は何をもたらすだろうか? すでに日本でも大企業による食の囲い込みは始まっている。基礎研究は税金使って大学や国の研究機関にやらせて、そうして開発させた「ゲノム編集」種苗で民間企業が儲けるモデルが動き出している。


 
 本来、種苗はそれを使う側、開発できる人材、開発できる環境整備が不可欠であり、農村の底上げ政策が不可欠だが、今の日本政府の政策にはそれがない。なぜならサイバー空間で新品種を作って、世界に売ればいい。農村や農家はいなくても新品種が作れる。日本の農業、食を支える発想はそこにはなく、新品種で民間企業が儲かることがすべてとなる。しかし、それが失敗した時、どうなるか、という対策はどこにも見当たらない。米国ですら有機種苗産業が成長していて、バイオテクノロジー一本槍ではないのに、日本政府にはどうやらプランBはない。
 
 すでに企業中心農業モデルは破綻し始めている。特にウイルス・パンデミックに伴う混乱は続いている。第一波での輸出規制に加え、昨年末、世界最大の小麦輸出国のロシアが小麦などの穀物に輸出税を課して、輸出を規制し、アルゼンチンも輸出規制に踏み切った(3)。今後、食をローカルに生産できない地域はさらに危険になる。
 
 日本政府が作らないのであれば、わたしたちがプランBを作ればいい、というか作るしかない。グローバルに生産される遺伝子組み換え農業や農薬・化学肥料多投型農業に代わり、地域で環境に配慮されて生産される農作物を軸とした食のシステム。そしてそれを支える種苗を可能な限り、地域で作れるようにしていく。その意味では地方自治体の公的種苗事業や地域の在来種を含めた種採りはとても重要な意義を持つことになる。コモンとしての食の共有財産を守る必要がある。
  
 そのためには以下のことが必要だろう。
 改正種苗法は一部が4月から施行される。自家増殖の許諾制などの規制は来年4月から施行される予定となっている(4)。育成者権を持つ国や都道府県に対して、その登録品種の自家増殖をこれまで通り認めさせることは可能である。同時に公的種苗事業の維持・強化に向けた予算確保(ただし「ゲノム編集」などのバイオテクノロジー種苗は除外)させることが必要だろう。地方自治体や農研機構に要求していく必要がまずあると思う。

農水省食料産業局知的財産課による改正種苗法全国Web説明会の資料から
農水省食料産業局知的財産課による改正種苗法全国Web説明会の資料から

 
 さらに学校給食など公共調達での地産化・有機化を軸に地域の農家を守り、地域での自給率を上げるための体制作りが不可欠になっていくと思う。消費者、農家、特に子どもを持つ親、教育・医療・福祉関係者、自治体・議会関係者、地域流通業者、地域メディアなど、より多くの広い連携が必要になる。未来を見越した上でのプランBを地域地域に作っていくべきではないだろうか? それぞれの地域のプランを比較しあったり刺激しあったりすることができれば、食料危機にもパンデミックにも負けないよりしっかりとした地域の食料政策が作れるはずだろう。

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(1) Digital control: how Big Tech moves into food and farming (and what it means)
https://grain.org/e/6595

(2) 改正種苗法全国Web説明会。今後、全国で会場とWeb通じて開催
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/tizai/brand/zenkoku.html

(3) 生産国の穀類輸出制限 食料貿易 波乱の兆し 特別編集委員 山田優
https://www.agrinews.co.jp/p52972.html

(4) 改正種苗法の施行日 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/attach/pdf/shubyoho-22.pdf PDF

なお、現在、改正種苗法に伴う省令に関するパブリックコメントが行われている。締め切り2月13日
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=550003248&Mode=0
 今回のパブリックコメントでは自家増殖に関する規定は入っておらず、対象となるのは
種苗法施行規則に関して
1. 品種登録出願の願書に添付する書面について
2. 在外者による品種登録出願等に関する手続の特例について
3. 輸出先国又は栽培地域を指定する手続等に関する届出書について
4. 輸出等の行為に係る制限が付されている旨等の表示の文字について
5. 品種登録表示について
6. その他
品種登録規則に関して
1. 育成者権に関する登録の申請書に添付する書面
2. 輸出等の行為に係る制限の届出等があった場合の登録の方法
3. その他
となる。新品種を作って出願する側に関わるものが多く、自家増殖など種苗を使う側の農家に関わるものは今回のパブリックコメントの対象となる省令には入っていない。来年か?

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