マスメディアが語らない種苗法改正。シナリオはこうなる。

 これまで日本の主なお米の品種を作ってきたのは地方自治体。コシヒカリもササニシキもゆめぴりかも地方自治体の農業試験場が育成したもの。今なお、わたしたちが食べるお米の99%はこうした公共品種(国・農研機構も含む)が占めている。地方自治体の予算からすればほんのわずかな公共投資に過ぎない種苗予算はここまで日本の食を支えてきた。 

 これが民間企業本位の仕組みに変えられる。農業試験場は民間企業が新品種を開発する上で必要な基礎研究中心にされていくだろう。これは儲からない。だから税金でやらせる。そしてその知見は民間企業に提供される。民間企業はわれわれの税金で基礎研究を外部化して、経費を節約して利益を貪れる。われわれの税金は農家や消費者のためではなく、民間企業の利益のために使われる。
 ここで重要なのはかつての農業試験場の種苗開発の目的はその地域に合った、地域で生かされる品種の開発だったが、ここではそうではない、ということ。民間企業が利益になる品種であることが必要条件とされる。新品種として売りに出せる新規性、希少性が追求されるだろう。「ゲノム編集」も使われていくだろう。地域のため、地域の住民のため、という属性が消える。これまで100%自給されてきた種籾の増産も海外でやっていくことになるかもしれない。
 そして、農家はその種をもはや自由に使えない。ライセンス契約が必要で、化学肥料や農薬の使用が義務付けられ、農家は監視されるだろう。そして、収穫は全量持っていかれて農家の元には残らない。産直・提携は不可能となり、人びとの食の決定権、食料主権は奪われてしまう。地域の自給率はさらに下がる。儲からなければ企業は撤退する。何かあれば食べるものがない、という事態も起きかねない。
 こう書けば、「民間品種使わないで在来種使えばいいだろ」と言う人が出てくるだろうが、流通まで押さえられてしまえば使いたくても使えなくなる。公的な市場システムが急速に企業化されつつあることが大きな脅威となってくる。
 しかし、まだライセンス契約で拘束されるような民間種苗の割合は全体の1%にもならない。現状で公共品種は圧倒的に優勢であり、突然こんなシステムに変わってしまうというわけではない。だから、今、動けば地域の種苗も食も守ることは可能であり、このシナリオが社会全体を覆う事態は避けられる。でも放置していればこうしたシナリオは着々と進んでいくだろう。

 第2次世界大戦後、世界大で企業本位の農業開発を行った結果、世界の土壌は荒廃し、気候変動は激化し、生物多様性は激減し、感染症やさまざまな慢性疾患を拡げる結果となっている。
 その現実に対して、世界が今、求めているのは食料主権とアグロエコロジー、つまり農家や消費者の決定権の強化と農産物の有機化・地産化である。20年ほどで世界の有機市場は5.5倍近くに急激に拡大している。それに向けて、各国もアグロエコロジーを続々と採用し、化学肥料や農薬を使わない家族農業の支援に乗り出している。それに必要なのは有機・自然な種苗。
 日本ではその真逆の動きが猛スピードで動いている。この流れを反転させるためには何が必要だろうか? 完全に買収されきっている政府・国に任せている以上、この流れは止まらない。パリ市は多国籍企業の手に渡った水道事業を市民運動や議員たちが結びついて再び公営化に戻したという。そして、自治体の水道事業を監視する市民参加のフォーラムが作られているという。買収された国(中央政府)に対して市民参加によって対抗する地方自治体が世界で現れ始めている。
 今、地方自治体が地域に合った種苗を作り、それを地域で生かすこと、そして地域の残る農家が守ってきた在来種を生かせる仕組みを作ることが不可欠な動きとなる。地域の市民が参加して声を出せるフォーラム、協議会を作り、そこから市民参加型で政策が作られる必要がある。地域の種苗を生かして環境を守って作られた農産物を学校給食など地域の食に生かしていく、地域の農家が継続することができて、そして新規の就農者を迎えることができ、地域の自給率を上げていくことができる。立ち上がった地方と地方が連帯することで、この動きは強めることができるだろう。
 この変化を作り出すのは今しかない。ここで手をこまねいていれば、間に合わなくなるだろう。地域で動きを作っていきたい。

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