種苗法改正の目的は公的種苗事業の民営化!

 26日から臨時国会が始まる。そして種苗法改正案が審議されようとしている。何度にもわたってその問題を書いてきたが、この改訂が何を目的としているのか、はっきりさせておきたいと思う。

 この種苗法改正の前に、新品種を作る営みをされている新品種育成農家の方たちの状況が大変だという話がある。たとえばリンゴやブドウの新品種を開発されている人たちがその営為から十分な収入が得られないという。だから、種苗法改正が必要だ、というのだが、ちょっと待て。

 地域で新品種を作る農家の方たちの存在は宝だ。その方たちの収入が保障されるようにどのような手が打たれたか? 種子の場合は3年くらい自家採種した後に種子をもう一度買い直すことがあるが、果樹の場合はそれがない。だから、一回買うだけでずっと新品種育成農家には支払われないとなれば、これはよほど生産農家が膨大にいないと儲けが十分確保できなくなるだろう。
 種子での増殖とは別な形で新品種育成農家の収入を得られる形態にしていく手段は現在の種苗法にもある。農水省が省令で指定したり、別途、契約によって別扱いさせることができる。
 また、現在、安い海外産のリンゴやブドウがスーパーの売り場を占めている。厳しい価格競争を強いられる中、現在以上に支払いの負担が増えれば離農せざるをえない農家も増えてくる可能性がある。種苗を買う農家が減れば、種苗家の方たちの未来はさらに厳しくなる。どう日本の地域で作られた農産物を地域で生かせるか、国産農産物の生産と消費を増やす方策。これこそが種苗を買う側の農家も種苗を売るの方たちの双方を支える鍵になる。これがなければ新品種育成農家の窮状は解決しない。種苗法改正では解決できない問題だ。

 一方、今回の種苗法改正の真の目的は公的種苗事業の民営化であることをはっきりと見ておく必要がある。
 これまでは食料保障の根幹となる種苗を国や地方自治体が行ってきている。コシヒカリもササニシキも福井などや宮城の県の農業試験場が作り出したものだ。そうした種子が地方の農業を支えてきた。すでに野菜や花はその多くが民間企業に委ねられているが、まだ食料保障に関わる主要農作物は公的事業に担われている。しかし、今、この最後の砦が民間企業の手にかけられようとしているのだ。

 農業競争力強化支援法(支援法)第7条では「民間事業者の活力の発揮を促進し、適正な競争の下で農業生産関連事業の健全な発展を図ることに留意する」としている。つまり、公的種苗事業で税金を投入していては「適正な競争」ではないとして、税金の投入が攻撃されていくだろう。民間企業がそうしているように農家に買って支えさせるものにされていく(=自家増殖一律許諾制)だろう。
 その地域にはとても大事な役割を果たしている種苗であっても、市場規模が小さくて採算が合わないとなればこの競争の中を生き延びることができなくなり、地域を支えていた多様な品種の種苗は姿を消していくことになるだろう。日本には各地域ごとに市場規模のとても小さい、儲けにならない種苗が公的事業によって提供されてきた。そうした儲けにならないけれどもとても魅力のある優秀な種苗があったからこそ農業を継続することができた地域も少なくない。しかし、そうした種苗が消えれば耕作放棄地はさらに増えるだろう。
 
 種苗市場は少数の品種が広域で生産されるように変わっていく。これは少数の品種で儲けたい民間企業にとって好都合となる。支援法第8条3項は「銘柄の集約」を求めている。農水省は肥料などのことであると言い逃れるが、そんな限定は書かれていない。
 規制改革推進会議は米の品質検査の規制緩和を提唱し、安倍前内閣はそのまま7月17日に閣議決定している(1)。その中に、産地品種銘柄の見直しが入っている。産地品種銘柄とは各道府県ごとにその地域で栽培に適した品種を決定し、種籾の提供やその品質検査体制を確保させるものだ。この制度をなくして、全国の統一の品種銘柄にすることが勧告されている。産地が限られた地域限定品種を全国統一の銘柄にすることは困難になるだろう。こうなれば各自治体が自分たちの地域の品種として決定してきた権利が失われることになる。


閣議決定された産地品種銘柄の見直し(赤い箇所参照。クリックで拡大)[1]

 全国各地の道府県の産地品種銘柄に採用されるようにすることは大変なことで可能な限り広域に種籾を売りたい民間企業はそれに不満をかねてから持っていた。それをなくして全国統一規格となればそれに圧力をかけて採用は得やすくなる。広域品種の栽培に適していない地域の品種は廃れるだろう。


今年の産地品種銘柄の例[2](クリックで拡大)

 特に問題は東北や北海道だ。これまでこれらの地域は寒い気候であることもあって、独自に開発した品種が幅を効かせてきた。しかし、今後、気候変動が進む。そうなると広域に対応した民間品種が押しつけられていくように変わっていく可能性が高い。
 想像以上に急速に公的種苗事業の民営化が進んでしまう恐れがある。そしてほんのわずかの企業によって日本の食は握られてしまうことになるだろう。
 種苗法改正の真の目的はこうした体制へと変えることにある。そして、そうなれば地域の食文化の元となった品種は失われ、種籾の権利は企業に握られ、生産者も消費者も食の決定権が奪われてしまう。

 それではこれを避けるためにはわたしたちは何をすればいいだろうか?

 まず種苗法改正案が持つ問題について少しでも多くの人に伝え、国会議員、地方議会の議員に地域の食が危ない、地域の種苗が危ないことを伝え、この審議入りを思いとどまるように働きかける。審議入りが止められなければ慎重審議を求める。
 
 残念ながら与党圧倒的多数の国会では審議入りされれば、あっという間に成立してしまう可能性は高い。今回の種苗法はしかし、世界に類を見ない問題を持っている。たとえばEUや米国でも主食は自家増殖可能とされているのに、そのような例外が存在していない、世界で唯一の法案と言えるだろう。
 だから主要農作物を自家増殖許諾制の例外に設定する。そして都道府県は例外を設定する権限を持つという修正を行う。
 EUでは15〜18ha未満の小規模農家は穀類などの自家増殖の許諾料の支払いが免除されている。日本でも小規模農家に免除を認めさせる。
 有機農業をやるためには買ってきた種苗を一度有機栽培して初めて本当の有機農業のための種苗が得られる(有機種苗の販売が稀であるため)。だから有機農業の種苗を作るための自家増殖は例外として認めさせる。
 「ゲノム編集」など遺伝子操作した種苗には表示を義務化する。
 こうした修正がなければならないことをしっかりと要求していく必要があると考える。「種苗法改正は問題ない」とする政府の説明は到底受け入れられず、数多くの虚偽説明が行われている。このまま数の力で採決させてしまうことは今後の日本の農業に大きな問題を生むことにならざるをえない。それはなんとしても避けたい。
 
 そして、国会の審議に関わらず、重要性を帯びるのが地方議会の存在だ。地方の品種の決定権、そして種苗事業の安定継続がなければ、その地方の食の基盤は壊れてしまう。それをどう守るかは地方にかかっている。
 イタリア議会は種苗の決定は地方に任せるという法律を昨年決めたらしい。日本政府はその真逆に地方の決定権を奪い、民間企業(多国籍企業)にその事業を任せようとしている。この転倒したやり方をただすためには地方から国会へと圧力をかける必要がある。その意味でも地方の取り組みが決定的に重要になる。

 26日以降の国会に注目し、特に地方での取り組みをお願いしたい。可能な限り、そのような取り組みを支援していきたい。

参考
種苗法改正に関する農水省のQ&Aに一言

種苗法・種子法問題の論考

食政策センター ビジョン21の安田節子さんによる農産物検査規格の見直しに関する問題提起

(1) 農産物検査規格の見直し閣議決定 https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/kensa/attach/pdf/200904-14.pdf#page=17

(2) 今年の産地品種銘柄一覧 https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/sentaku/attach/pdf/index-41.pdf

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