英国、「ゲノム編集」EU規制離脱踏みとどまる

 BrexitでEUから離脱した英国、規制の強いEUから離脱するこの機会をチャンスと捉えるのがバイオテクノロジー企業。「ゲノム編集」はEUでは遺伝子組み換えとして規制されるが、EUから離脱すればその規制をなくせる、として、規制をなくす農業法案(1)が出されて大問題になった。市民団体のキャンペーンが功を奏して、この法案は撤回された(2)。

 「ゲノム編集」によってどんな問題が出るか、まだわかっていないことが多い。ここのところ続々とさまざまな問題が指摘されている。EUの他、ニュージーランドも規制する方針を固めており、この規制派が増えれば、「ゲノム編集」の農業は世界の一部を対象とすることになって、これまでの遺伝子組み換え作物と同様の大きな壁ができることになる。その規制の一角を崩してしまえば、というバイオテク企業の野望はいったん退けられた。それは朗報と言える。

 一言で「ゲノム編集」にどんな問題があるか? 遺伝子は他の遺伝子と有機的に作用し合いながら機能している。その一部を破壊することによって、たとえ正確にその「編集」が行われたとしても、他の遺伝子の機能にも影響を与えてしまうことが起こりうる。
 たとえば、収穫が多くなる「ゲノム編集」作物は植物の成長を抑制する機能を持つ遺伝子を破壊してしまう。生物の遺伝子には成長促進と抑制、つまりアクセルとブレーキの機能が備わっている。ブレーキを壊せば成長は促進されるから収穫が大きくなるかもしれない。しかし、それは生物の自己統制機能を壊すことになる。統制能力を失った植物は自分の力では生きられず、より農薬などに依存を深めていかざるをえないだろう。
 それが環境や健康にどんなインパクトを与えるか、残念ながら研究・検証することもなく、米国政府や日本政府はもう「解禁」してしまった。

 そして、現在、「ゲノム編集」で最も使われるCRISPR-Cas9という手法は元は細菌がウイルスを撃退する仕組みを遺伝子破壊のために使うというものであり、ウイルス攻撃の武器としてはとても優れたものだと言えると思うが、生きた生物の一部の遺伝子を破壊するには残念ながら言われるほどの正確性をもっておらず、想定していない大量の遺伝子破壊を引き起こすこともある。
 もし、狙い通りの遺伝子を破壊できた場合でも、その破壊された遺伝子の後に予期しない変異が生まれる割合が高い。「編集」と呼んでいるけれども、「ゲノム編集」が行うのは遺伝子の破壊までであり、その後の修復は生物まかせであり、どんな変異が生まれるかは関与しない。だから「編集」名前には値しないものである。

 遺伝子の機能を調べるなど研究室のツールとして「ゲノム編集」は有用な技術であり、これからも使われていくことは間違いないが、それを品種改良に使うというのはとても浅はかな行為であり、許されることではない。遺伝子操作してしまったものを環境中に放つことで取り戻せない遺伝子汚染を拡げることになってしまいかねないからだ(3)。

 英国は一歩踏みとどまったが、日本政府は昨年すでに「ゲノム編集」を規制せずに利用を認めてしまっている。特に深刻なのは種苗に表示義務がないため、購入した種苗が「ゲノム編集」されたものかどうか、知る方法が現在存在していないことである。種苗には使った農薬をすべて書く必要があるが、遺伝子操作は種苗に書く義務がない。

 今後、EUやニュージーランドだけでなく、さらに多くの国が「ゲノム編集」を規制する方針を打ち出してくるかもしれない。その時に、それらの国には日本は農産物の輸出もできなくなるだろう。なぜなら、「ゲノム編集」されているかどうかがわからないのだから。これでは日本の農産物は「ゲノム編集」されている可能性が否定できないとして市場を失う危惧がある。
 今、世界でもっとも急速に拡大している産業の1つは有機農業と言えるが、日本ではその有機農業も崩壊してしまいかねない。なぜなら、有機農業では「ゲノム編集」は使ってはいけないが、見分けがつかないから有機認証しようがなくなってしまう。

 こんな事態を防ぐためには指定種苗制度を改定させて、「ゲノム編集」を含む遺伝子操作の有無を表示義務化させる必要がある。2023年、日本ではnon-GMOという表示が実質的にできなくされてしまう。その前までに代替の食品表示制度を作らなければならないが、その食品表示制度はこの種苗表示が基礎となる。それを考えれば指定種苗制度での遺伝子操作の表示義務は早急に取り組まなければならないことになる。

(1) Agriculture Bill 2019-21

(2) UK campaigners oppose plans to deregulate genome editing

GE deregulation amendment is withdrawn – but there is more work to do

(3) Science supports need to subject gene-edited plants to strict safety assessments

New genetic engineering techniques pose numerous risks

(4) 農水省:指定種苗制度

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です