有機農業の問題としての種苗法改正問題

 種苗法改正法案の今国会での審議はほぼなくなった。先月末までこれは与野党で問題にする案件じゃないから審議なしの即決で決める、と言っていたものがここまで変わったのは多くの人たちが国会議員に電話やFAX、メールや署名をしてくれたおかげだと思う。お疲れさまでした! しかし、残念ながら廃案になったわけではなく、次期国会で今度はまったなしで審議されるのでさらに厳しい局面になるだろう。それを前に、現在の法案や政府の施策にどんな問題があるのかまだまだ探る必要がある。

 ここでは有機農業の問題として考えてみたい。有機農業は今、世界で最も成長している産業といえる。この20年足らずの間に世界の有機市場は5倍近く拡大しており、その勢いは止まることを知らない。気候変動問題や生態系の危機が迫られる中、有機農業が持つ役割の大きさにも注目が国際的に集まっている。

 日本政府は有機農業の推進にはきわめて消極的だったが、今年定められた食料・農業・農村基本計画の中に、有機農業の推進がようやく取り上げられることになった。それでは日本で有機農業は現在の政策の下で発展することができるだろうか? 有機農業を種子から考えてみると、その厳しい現実がわかる。

 有機農産物の標準の基本は国際的なものだが、各国で若干の違いがある。EUの場合は有機農業として認められるためには利用する種苗も有機でなければならない。つまり、農薬や化学肥料を使って育てられた作物のタネを使うと有機にはならなくなる。だけど、日本ではそれはOKにされている。日本の基準が甘いのだ。というのも日本では有機の種苗の提供体制はできていない。だからそこを厳しくしてしまうと、有機生産がそもそもできなくなってしまうので基準が緩くなっている。

 だから日本で本当の有機農業をやろうと思うとEUよりも大変な話になる。有機の種子を買おうと思ってもなかなか手に入らない。日本の大手の種子会社は有機の種子を扱っていない。普通に売っているのは有機ではない種子(注1,2参照)。もう仕方ないと割切って、有機ではないタネで使うか、それをよしとしなければ、ちょっと大変。その買ってきたタネを有機栽培で育てて、出荷せずに、自家採種に回す。そうすればその採れたタネは有機栽培されたタネになって、晴れて有機のタネを得ることができる。それを使ってようやく本当の意味の有機農業が可能になる。

 しかし、ここでその自家採種の許諾が得られなかったらどうなるだろう? 毎回毎回買え、と言われたら本当の有機農業はもう永遠にできなくなる。認められても許諾料が必要だとすると有機農業のためのタネを得るためにはタネの値段+許諾料で初めて使える種子になるのだから、ここで大きなハンディを負うことになる。もちろん、登録品種を使わずに在来種を使うことができればそれで解決することもできる。農水省は登録品種は10%に満たないというが、しかし、実際に現在特に主要農作物で使われている品種などでは登録品種の方が数の上ではむしろ多いくらいだ(3)。だから登録品種の自家増殖権が自由にならないというのはこれから有機農業を始めようとする人にとっては大きな障害になってしまう。
 本当に日本で有機農業を推進することを重視するのであればやはり登録品種であれ、自家増殖することを認めることは根幹の問題なのだ。種苗法改定は日本の有機農業の発展にも障がいとならざるをえない。

 そして、有機の種苗の供給体制をどう、日本で作るか、という問題も重要だ。
 これまで日本では例外的に民間稲作研究所が有機栽培されたコシヒカリの種籾などを供給してきている。その民間稲作研究所が中心となって、一般社団法人種子の会とちぎが設立され、その元で栃木県シードバンクプロジェクトが始まった。栃木県における在来種を守っていくために生産者の協力者を募集し、在来種を更新する(栽培して、採種して新たな種子につないでいく)体制を構築するために協力をよびかけている。こうした地域のシードバンクが日本の各地域にできれば日本の有機農業の生産基盤は格段に大きくなる。千葉県のいすみ市の学校給食が有機米になったのも、この民間稲作研究所の存在なしには語れない。
 実際に日本の学校給食を韓国みたいに全部有機にしていこうとすればまず、まずはこの有機種子の供給体制から構築しなければならない。その課題に種子の会とちぎは取り組み始めている。とても貴重な取り組みだと思う。
 こうした取り組みにこそ、地方自治体や国は支援すべきだと思うのだが、地域の農家と市民の力によって、現在はこうした活動が維持されている。

 日本の農業が海外からの安い農産物に対して生き残るためにも地域の有機農業の促進は有効な手立てであるだけに、本当に日本の農業のことを懸念するのであれば、日本政府はまっさきにこうした分野に力を入れるべきであろう。
 しかし、地域の育種家、有機の種苗を生産する農家、そうした支援ではなく、種苗企業の支援の方に向かっているのが今の日本政府であるといわざるをえない。これをどう変えていくのかが大きな目標となる。

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 日本でも有機で育てられた種子を購入することは可能である。
(1)  最近、大手の種子会社でも時々有機の種子が入荷することがある。これを手掛けているグリーンフィールドプロジェクト。
https://www.facebook.com/gfpjapan/
オランダなどのEUの有機種苗会社から有機の種子を輸入して直販している他、大手の種子会社経由でも販売しているという。最近では輸入だけでなく、日本での有機種子採りプロジェクトも開始したというから今後の発展に期待したい。

(2) 老舗の野口のタネは今週は販売お休みのようだが、無農薬で育てられた種子を販売している。
http://noguchiseed.com/hanbai/
 自然農法国際研究開発センターもまた、自然栽培された種子の販売を行っている。
http://shizentane.jp/
 最近、注目されている15歳でタネの会社を企業した小林宙さんの「鶴頸種苗流通プロモーション」でも伝統野菜の種苗を販売とのこと。詳細知りたいところだ。
https://kakukei-seeds.amebaownd.com/

(3) 実際に耕作されている主要農作物(稲・麦・大豆)を都道府県別に見ると登録品種を使うケースが535件、一方、非登録品種は520件で、登録品種の方が多い。地方自治体が力を入れている品種、たとえば沖縄県のサトウキビの場合もほとんどが登録品種、山梨県のブドウも登録品種の方が多く、地域の農業の実態とはかけ離れた説明になっている。生産量でみると確かに非登録品種のコシヒカリなどが多いというのは確かだが、品種選択の先としてはやはり登録品種は今後も増えていくことが予想され、到底、10%という枠内には収まるとは考えられない。各都道府県で生産されている品種の元データは https://www.maff.go.jp/j/kanbo/tizai/brand/b_syokubut/hinshu.html

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