種苗法改正を考える:新しい世界の動き

 どうやら種苗法改定案は今国会見送りになる可能性が高くなってきたようだ。しかし、廃案になったわけではないので油断はできない。
 もっとも、農水省の職員になって、きまじめに職務を実行している人たちからすると、今回の種苗法改正は長年かけてやってきたことの集大成だと思っているかもしれない。

 1998年、日本は種苗法を改訂して以来、自家増殖を原則禁止にするという方向性は農水省の研究会でもたびたび打ち出されており、現場に混乱を来さないようにたびたびアンケートを実施して、問題少なそうなものから禁止種を増やしてきた。今回はその総仕上げ、ということになる。

 だから、やるべきことを粛々とやってきた、それなのになぜ、騒ぐの? ということになるだろう。でもそれは自分の机の周りしか見ていないからで、世界の動きを見れば、それは考え直さなければならないことがわかるだろう。
 
 1998年以降、世界は大きく変わっている。種苗市場の行きすぎた寡占化(遺伝子組み換え企業4社で7割近い市場独占)、世界で生産される種苗の品種の多様性激減、急速に失われている在来種苗、単一作物の大量生産や気候変動の影響で菌病や害虫被害の激増、一方で、土や気候に適合した農地で自家増殖された種苗の意義の再発見、世界的に追い詰められてきた小農の運動が世界化して拡がり、その権利が国連で認知される。
 これまで農業を民間企業にまかせ、大規模化させ、工業化させ、という方向が破局的な結果を生み出すことが世界で明らかになり、小農を中心に生態系を守る農業という180度の劇的な大転換が国連でも行われる。それは各国政府の政治にも影響を与え始める。巨大な変化と言っていいだろう。
 知的財産権強化一辺倒であった動きに対しても種子の権利を求める世界の動きは大きく拡がり、在来種を守る運動が世界各地で展開され、小農の権利宣言が成立して、農民の種子の権利が高らかにうたわれ、各地域で在来種を守る条例や法律の制定が進み始めている。

 だけど、日本はなぜかその世界の動きと無縁に動いている。今回は22年ぶりの改定にあたるわけで、その間これだけの変化があった。もし変えるのであれば当然、この世界の22年間の変化を反映した改定案でなければならないのに、この改定案にはまったくそれが反映されていない。1998年の時と同じマインドのまま。時代錯誤も甚だしい。

 「おまえ、そんな勝手なまとめしたって、説得力ないよ」と言われるかもしれない。だけど、さにあらず。
 この種苗法問題の取り組みを始めたのは日本の種子を守る会で元農林水産省農蚕園芸局種苗課審査官も務められた大川雅央さんを講師にお願いした勉強会からだった。大川さんは食料・農業植物遺伝資源条約という2001年にできて、今や世界の大部分が批准している国際条約を日本が批准するように活躍された方で、種苗法にも精通しておられる。その大川さんが自家増殖する権利がいかに重要か、育成者の権利とどうバランスさせることが重要かを強調されていたことが印象に残っている。

 農水省の中にもこのような方がおられたことにはとても勇気づけられる。今や、世界一の民間企業のための国にするという安倍政権の方針の中で、大川さんのような考えの人は農水省ではさぞかし冷遇されているだろうことは想像できるが、きっとまだおられるに違いない。農民のための省なのだから、いて当然だろう。

 大川さんが農文協の『季刊地域』に書かれた原稿は無料公開されている。農文協に感謝しつつ、それを紹介したい。

“人類の生存、農作物の多様性のために 「農家の権利」を育みたい”

 また大川さんは地球・人間環境フォーラムの月刊誌『グローバルネット』2020年4月号 特集「タネの未来と日本の農業を考える〜種子法廃止・種苗法改正案を受けて〜」でも寄稿され、農民の権利を守るための取り組みを訴えておられる。農水省OBからの発言として貴重だ。

 現在の優先順位で考えれば、このコロナウイルスの脅威の中、食料自給率の低い日本にとって、食料生産の元になる種苗の地域自給率を高めることが最優先課題になるだろう。そのためには自家増殖する農家、地域の育種家、地域の種苗会社、そして地方自治体が果たす役割が大きいだろう。これは種苗法という枠組みというよりは、むしろ、ローカルフード育成法という枠組みで考えた方が有効なアプローチとなるはずではないか?
 昨年から家族農業の10年が始まり、国の農業基本計画でも有機農業、小農の果たす重要性が反映されつつあるという中、喫緊な課題はローカルフード育成であって、種苗法改定ではないことは明らかではないだろうか?

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