種苗法改定を考える:世界で変わり始めた潮流

 タネや苗に関して、ここ近年、大きな歴史的変化が世界で生まれている。地域の多様な種苗の重要性の再認識である。日本の種苗法改定とは正反対の方向。
 これは過度の農業の工業化によってもたらされた危機への対応と言えるだろう。
 この30年ほどを見ると、最初に世界に大きな流れを作ったのは多国籍企業。特に1990年代後半以降、遺伝子組み換え企業を先頭に、種苗の知的財産化が急速に推進されていく。しかし、特に2007年/2008年の世界食料危機以降、世界の流れは変わっていく。地域の多様な種苗が見直されるようになっていく。気候変動の激化による危機感も、また種苗の多様性の激減に対する危機感もこの流れを加速している。

 自家増殖することに農民の権利としてだけでなく、新しい意味が付与されていく。種子は土や気候も記憶し、その地に適応していく。つまり、遠くで作られた種子よりも、地域で育てられた種子の方が適用能力が高く、より少ない水で育つことができる。環境に与えるインパクトも低くなる。
 たとえばモンサントのビジネスモデルでは、米国で開発された遺伝子組み換えコットンをブラジルやインド、アフリカで育てろ、ということになる。しかし、当然ながら気候も土も異なる。特にインドやアフリカでは生産量や品質において問題が多発した。裁判にすらなっている。1品種に平均150億円もの金額(北海道の種苗事業の予算の100年分)をかけると言われるモンサントは地域毎に合った種子など作ることはできない。
 モンサントは南西アフリカの乾燥地域に対応する遺伝子組み換えトウモロコシを作るとして、ビル・ゲイツ財団などの支援を受けて取り組んだものの、アフリカの各地域で長く育てられたトウモロコシの方がはるかに適性が高く、南アフリカ政府はその承認を拒絶した。

 こんな流れの中で、寡占状況にある多国籍企業の品種ではなく、伝統的品種を含む地域の多様な在来種の重要性に注目が向くのは当然のことだと言えるかもしれない。
 ブラジルはいち早く2003年改定の種苗法でクリオーロ種子条項を設け、地域の農家が持つ伝統的種苗を守る政策を打ち出し、韓国は多くの地方自治体が在来種保全育成条例やローカルフード育成条例を制定している。EUも来年から有機農家が作る種苗が売り買いできるようになる。米国でも昨年、ネイティブ・アメルカン種子保護法案が作られ、メキシコでもネイティブ・コーン保護法が成立した(*注参照)。
 欧州特許庁は通常育種による新品種(植物も動物も)には特許を認めない決定を今月下した。遺伝子組み換え企業は通常育種の品種にも特許を申請してきており、種子への特許に反対する運動団体が反対運動を繰り広げてきた。知的財産による支配に対する批判はより大きくなり、それは政策にも反映されつつある。

 20年前にここまで大きな流れが変わるとは誰が想像できただろうか? つまり、世界では、種苗の独占がどんどん進むのが歴史の流れであり、ますます民間企業が中心になる、と以前は考えてられていた。それが、今は、むしろ、残っている在来種を守ることに注目が集まり、種子の決定権こそが民主的社会の基盤である、とする主張が高まり、それに基づく政策(条例・法)が世界各地から生まれている。
 しかし、TPPやRCEPなど自由貿易協定で進むのは今なおそれとは反対の方向、つまり、独占を強化する方向のまま。なぜならこうした協定では今なお多国籍企業のロビーの力は強く、農家や消費者の声はなかなか届かない。でも、その動きがすべてではないのだ。自由貿易協定への抵抗は世界で拡がりつつある。

 今回の種苗法改定、農水省の担当者から見れば、それはずっと前からの規定方針だと言うかもしれないけれども、その担当者の頭の中に、世界のこの変化は伝わっていないのだろうか? 1990年代の発想に囚われたままと言わざるをえないのではないだろうか?
 一方、規制改革推進会議やその周辺からすれば、この新しい世界の動きに歯止めをかけて、多国籍企業の富の源泉を作り出すために、種苗法は一刻も早く改正してしまえ、議論などするな、と号令をかけるということだろう。今回の種苗法改定では特許法との整合性も高められ、EUとは真逆に農水省は特許化の強化を打ち出している。

 世界は変わろうとしている、変わりつつある。でも日本はその真逆に最高スピードで進もうとしている。結局1990年代後半の発想のまま日本は変わっていない。このまま進んでしまったら、10年後、20年後、日本と世界の他の国々との間にどんなギャップが生まれてしまっているだろうか、
 今一度、立ち止まり、今、日本がすべきことを考え直す時が来ている。種苗法改定する前に、やるべきことがあるだろう。

#種苗法改正案に反対します



* このメキシコでのネイティブコーン保護法は多国籍企業を利するものに変えられてしまったという批判がある。後日に。

本来ならば上記で書いたことの根拠となる出典などを並べるところですが、体調が思わしくないため、後日、余裕があれば追加、あるいは全面的に加筆して書き直すかもしれません。1日に机の前に座れる時間に限りがあるため、ご容赦を!

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