種苗法改定は影響ないって本当? 登録品種の実情

 種苗法改正は大した影響を与えないと思っている方は農家の中にも少なくない。そうした人たちからみたら、「なんで騒いでいるの?」ということになるだろう。たとえば野菜はトマトなどを除くとそもそも種苗法上、登録されていないものが多い。だから野菜ばかり栽培されている農家の場合にはすぐには影響が出ないだろう。なら、本当に影響ない?

 農水省は「登録品種は実は10%も存在しておらず、90%以上は自家増殖できるんです、だから大丈夫です」と宣伝している。実際、品種名として残っている数をすべて出すとそうなるが、その数は現在の農業の実態を反映しているだろうか? 農水省が都道府県別に栽培されている登録品種と自家増殖可能な登録品種ではないもの(農水省は一般品種と呼ぶ)を調べた結果が添付の画像。沖縄と大分の2つの県の例を挙げたが他でも大なり小なり同様の傾向である(1)。


 
 沖縄では栽培されているサトウキビ10品種のうち9品種が登録品種となっている。農水省が言っている登録品種は10%どころか数の上では逆に90%が登録品種となっている(生産量でどうなっているかつかめないが)。
 他の都道府県でも登録品種の存在感は10%どころではなく、穀類とイチゴ、枝豆、果樹などでは自家増殖できる品種よりも登録品種が圧倒しているケースが多い。だから、この種苗法改定はすべての地域のすべての農家に打撃を与えるのではなく、最初はそうした特定の作物を栽培する農家に打撃を与えることになる可能性がある。
 農水省は毎年1000も登録品種を増やそうとしている。10年後その割合がどうなっていくかは想像してみてほしい。90%は自家増殖できます、という状態には決してなっていないはずだ。
 
 また、この表から国や地方自治体が育成している品種がどれだけ多くを占めているかがわかるだろう。そして、それらの多くはこれまでは自家増殖とか知的財産権などあまり意識させることなく提供されてきただろう。地域の農家を支える公共の種苗事業として実現されてきた。売る方も買う方も育成者権をあまり意識していないという話はよく聞く。種苗事業を支える予算はさほど大きなものではない。数千万から1.5億円の範囲。しかし、それによって農村を維持できるのだから、効率的な、効果的な公共事業であると言える。

 しかし、これが今、攻撃の的になっている。規制改革推進会議は「戦略物資である種子・種苗については、国は、国家戦略・知財戦略として、民間活力を最大限に活用した開発・供給体制を構築する」(2016年10月6日)として種子法を廃止させた。種子法を廃止しないと民間企業は都道府県と同じ条件で競争できないから廃止するという理由で廃止されたのだ。そしてこの種苗法もその延長線上にあると考えなければならない。
 農水省の人びとは1998年の種苗法改定以降、今回の種苗法改正は既定路線だというだろうが、そこには彼らが直接関わらない規制改革推進会議の力が働いている。要するに公共の種苗事業を「民営化」させる、つまり多国籍企業の私物にしていこうというものであるということ。ここは自民の農政部会の議員も納得しておらず、そして農水省も本意ではないだろう。でもこの動きは確実に出てくる。
 
 今後、公共事業として使われていた税金が攻撃を受けるだろう。農家は種苗事業を買って支えなければならない、という言い方を昨年以来、何度も聴かされた。要するに税金ではなく、農家の負担にしなければならない、と。なぜなら、そうしないと多国籍企業は入り込めないからだ。安い種苗が自由に農家の手に渡ってしまえば、多国籍企業は限定的にしか種苗事業を展開できない。だから民間企業と同じような条件で公共種苗事業も農家に買わせる体制へと移行させる。そのお金は最初は安いが、年々引き上げられ、投入される予算は減らされていくだろう。結局、公的種苗事業は開店休業状態にされ、民間企業が中心へとなっていく。それには10年や20年の歳月がかかるかもしれない。
 公的種苗事業が細っていき、グローバル品種が市場を席巻する。地域の種苗会社や育種家もこのような中で存続が危なくなっていくのではないだろうか?
 
 その時になったら、登録品種10%ではなくなるだろう。登録品種が圧倒的になり、農家の種苗にかかる負担は10倍ほどに上がるのではないか? ここ数年の範囲ではそんな大きな差は生まれない。しかし10年、20年経てば、変わっていってしまうだろう。種苗だけではない。日本の巨大な食の流通システム全体が狙われていることも不気味だ。

 自民党の農政部会の議員はそこまでは見ていないと感じた。農水省もこれまでやってきたことを粛々とやっている、という意識だろう。でも、そんなやわなことではすまないはずだ。

 通してしまって10年後に後悔しても遅い。それではどうすればいいだろうか?

 農家の自家増殖の権利だけをただ主張すればいいというものではないと思う。もし地域の種苗会社が破産するようなことになれば地域の種苗がそれだけ得られなくなる。あくまで自家増殖権と育成者権は車の両輪なのだ。買って育種家や種苗会社を支えることが大事なケースもあるだろう。だから全国一律にすべて同じように決めるのではなく、地域で自家増殖が重要な品種に関して地域別にその権利を設定できるようなシステムに移行すればいい。これは種苗法を改正しなくても地方自治体の条例を作ることで実現可能だろう。
 公共品種に関して言えば、都道府県が許諾を不要と宣言することで、農家に自家増殖が可能になる。たとえば沖縄にとってはサトウキビの自家増殖を一定認めることは不可避だろう。でも他の県では別の品種になるだろう。だから、それを都道府県にそれを決定する権限を認めればいい。農水省が全国一律で決めることではむしろ混乱してしまうし、不当に種苗会社の利益や農家の利益を損なう可能性もある。
 そして、何より国が各地方自治体での種苗事業のための予算をしっかり確保するように法的な根拠を作ることだ。
 今、困難な状況にある地域の育種家や種苗会社は、その種苗がその地域の農業の発展に重要な役割を果たしているのであれば公的な支援計画を作ることも必要だろう。

 もし、種苗法改正がこのまま成立してしまうと、こうした動きを作るのは難しくなる。その意味でもやはり種苗法改正案は今のまま成立させるべきではないのだ。

(1) 農水省資料: 各都道府県において主に栽培されている品種(栽培されているすべてではなく、主な品種に限られる)

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