種苗法を取り巻く見えないプレーヤー

 検察庁法改正案、強行採決されず、まずはよかった。反対の声を上げたすべての方に感謝。でも来週が正念場。この法案が成立すれば日本のすべての領域に悪影響を及ぼすだろう。でも、ここで踏ん張ることができれば大きな意味があると思う。

 昨日一昨日と2日、国会に行って、自民党の農政関係の議員に会い、種苗法改正についての懸念をお伝えしてきた。ほぼこちらの主張に同意する議員も、部分的に趣旨は理解するという議員もいる。まともな国会であれば即決はありえず、議論が相当噴出せざるをえない。与党の中にもこれだけ批判があるのだから。しかし、それにも関わらず、結論として来週、自民党は1回だけの委員会で採決、衆院通過まで狙っていることは間違いない。

 一番、ショックだったのは国会がお飾りに過ぎないということをあたかも常識であるかのように言う言葉を自民党議員から聞いたことだった。もっともそれは公然の秘密のことではあるが。

 法案が提出され、それは国会内でも議論され、必要に応じて修正される。これが民主主義の当たり前のルール。ところが自民党の議員は「この法案はすでに半年間検討して、閣議決定されたもの。修正などありえない」
 ん? 閣議決定=法律の確定だったら、国会は何をするところなの? 国会議員は何をするためにいるの? 国会審議も不要だし、与党議員も野党議員も必要ないではないか? 現場の多くの農家を素通りして、勝手に決めることは明確な国際条約違反であるのだが、それどころか国会で自分たちの役割はないと白状したようなものだ。市民は3月になってようやく法案の全体を知ることができたが、コロナの問題もあって、意見表明する機会もほとんどない。こんな中で審議せずに決めることはありえないのだが、自民党の側は逆にそれしかありえないという。

 種苗法の問題点は多岐にわたるが自民党にも訴えるべき点として他に3つを指摘した。種苗法改正案が依拠するUPOV条約も国の主権の及ぶ合理的範囲において、育成者権を制限することを認めている。つまり、たとえば小麦の自家増殖は例外として自家増殖を認めるなどだ。米国の種苗法でもこれは認められており、特許法で禁止されていない限り、自家増殖ができることになっている。EUでは小規模農家は作物によっては許諾料の支払いを免除されている。しかし、今回の種苗法改正案にはそうした例外規定、免除規定が書かれていない。
 そういうと、議員は「いや免除されてますよ、農水省は事後申告すればいいだけ、と言っていた」などというから、いや21条にはそんな免除のことは書かれていないし、事後申告ではなく、許諾を事前に取らなければ種苗法違反というのが法律の文書ですよ、と言ったら、そこで議員の反論は止まる。法案読めていないんだなぁ。でも非難はできない。今の議員は以前と異なり、何から何までやらなければならないから、請願も全国からやってくるし、その対応しているとたくさんある法案1つ1つ読んでいる時間なんかない。え、コロナ感染で請願も全然来ていないって。じゃ、読む時間あるじゃん。
 で、免除は必要なんだ、ということは認めたわけだけど、当然、それならこの種苗法改正案は修正しないと成立させられませんよね?

 次の論点、今回の種苗法は日本の種苗が海外に流出することを防止することをその目的に上げている。にも関わらず、農業競争力強化支援法8条4項では国や都道府県の種苗に関する知見を民間企業に提供促進する、となっている。この民間企業には海外の企業、多国籍企業も含まれる。それは矛盾する。もしその目的を掲げるのであれば、この8条4項を削除しなければいけないはず、というと、「自民党はこれについては怒っている。私たちは絶対にそんなことを許すつもりはなく、2017年11月15日の農水次官通知の撤回(*)を要求している。現場で抵抗するから渡すことは絶対ありえない」という。しかし、もしそう言うのであればそうした法律があることは矛盾するのではないか、というと、「だから次官通知は撤回させる、でもそのためには種苗法改正法案の成立が前提となる」
 ん? 次官通知が前提としているのは種苗法ではなくて、農業競争力強化支援法なのだから、これを廃止しない限り、次官通知だけ撤回させてもダメ。いずれまた「法に基づいて」別の通知・通達が出てくるだけ。問題ある法を放置するのはおかしい、というと、法を変更するのはもうアンタッチャブルであるかの反応。国会って法を作り、必要に応じて変えるところでしょう? なんでアンタッチャブルなの?

 そして、今回、農水省は種苗法の中での育成者権と自家増殖権のバランスを壊して、在来種などの非登録品種があるからバランスできるという正当化を行ってきた。でも後者は法律で守られておらず、守られているのは登録品種だけ。これではバランスが取れているというのはまったくいえない。言うのであれば在来種保全・活用法がなければならないはず。

 この3点について、自民党の農政部会の人たちは概ね反対ではないという感触を得たが、しかし、種苗法審議はまったく別。議員によっては修正や附帯決議は必要だろう、今はコロナでそれどころではないから審議すべきではない、とまでいう議員すらいる。だけど、部会を握っている人は、「一切修正もありえない。われわれは半年も検討してきた。そして閣議決定も経ている。ここで修正に応じることは一切できない」の一点張りだった。野党の議員はまったくそのプロセスには関われない。市民も。国会は何のためにある?

 実際に修正が必要であることを認めても、変えることには踏み込まない。それは官邸に反抗することであり、アンタッチャブルなのだろう。ここに異なる複数のレイヤーの存在を感じた。

 一番上にあるのは、決定権を一手に握るのは首相官邸あるいは規制改革推進会議などのレイヤー。米国などの多国籍企業の意向を受けて、政策を実質的に決定している。

 この下に、自民党の農政部会や農水省の官僚たちがいる。このレベルでは一定、話がわかる人たちがいる。だけど、現状では上のレベルのことにはアンタッチャブル。官邸が悪いとはっきり言う人もいる。だけど、反抗できる力は持っていない。

 そしてその下にあるのが国会のレイヤー。野党はここで抵抗するしかないのだが、そもそもお飾りの位置づけ。これより上のレイヤーはまず報道の対象にならない。そしてこの国会でのやりとりも世論の注目が集まっている法案以外は報道の対象にならない。

 そして、ほとんどまったく無視されているのが市民のレイヤー。本来、憲法上では主権在民であり、決定権があるのは市民であるにも関わらず、完全にまったく蚊帳の外に置かれてしまっている。

 さらには本当の最上位には超憲法的存在として米軍や米国政府のレイヤーがある。戦後日本の構造はこうやって維持されてきた、ということはさまざまな人によって解明されてきているけれども、やはりその実態が自民党議員のあきらめに満ちた言葉から出てくると愕然としてしまう。

 こう書くと絶望的にも見えるけれども、そうでもない。なぜなら、このピラミッドは結局は砂上の楼閣に過ぎず、根拠がないからだ。存在が知られないことでその力を保っているに過ぎない。根拠付けることが不可能なもの。不可視・アンタッチャブルな存在にされてきたからこそ、これまで続いてきた。でもそれはすでに暴かれ始めている。これを変える根拠となる主権在民とする憲法はまだ存在し、人びとが知ること、動くことで変えていくことはできる。ただ、その存在をまだ多くの人に実感してもらえていないだけの話。

 すでに会期末が迫っているが、、農水委員会ではまだ処理しなければならない法案があり、種苗法改正案の審議日程は今日の時点でも決まっていないという。コロナ静まるまで審議するな、という声をあげ、審議入りされても慎重審議を求めていけば継続審議になる可能性もある。
 この種苗法改正されても大きく変わらないのに何言っているの、という反応がまだ少なくないようだけれども、5年後、10年後、とんでもないことになると言わざるえない。だからまずは慎重審議が必要。そこは強く言っておきたい。どうしてそうなるのか、十分書いてきたつもりだけど、また異なる角度からも明らかにしていきたい。


(*) 農水省次官通知抜粋 2017年11月15日
「都道府県は…民間事業者による稲、麦類及び大豆 の種子生産への参入が進むまでの間、種子の増殖に必要な栽培技術等の種子の生産に係る知見を維持し、それを民間事業者に対して提供する役割を担う」

【説明】これまでの都道府県の公共種子事業は民間企業に移行させる、それが済むまでは都道府県は続けなさいという農水省トップの都道府県への通知。さまざまなレベルで問題を含む通知。規制改革推進会議が決定した種苗事業の民営化を求めている。日本の行政機構はその言いなりになってしまおうとしている。もっとも現場での抵抗は存在している。

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