種苗法改定案に関する自民党Q&Aを検証する

 この間、今回の種苗法改定案にある問題について詳細に指摘してきた(1)。しかし、国会からの情報によると与党はこの法案を新型コロナウイルス感染を理由に審議を実質的にせずに、4月中に衆参1回切りの形式的な審議に留め、成立させようという意向であるという。
 この姿勢に対して、野党からは参考人質問含めてじっくり議論する必要が訴えられ、早めの採決を求める与党と慎重審議を求める野党の攻防になっている、というのが緊急事態宣言前の状態だった。

 この種苗法の問題は農家にも十分知られていないのが現実である。農水省は登録品種には育成者権という知的所有権があることを農家が意識していないことを問題視する。それならば、そうした育成者権は今はどんなものとして存在していて、今後、どう変える提案をしているのか、しっかりと説明する責任があるというものだろう。

 まずは地方公聴会を北海道から沖縄まで開かなければならない。だけど、新型コロナウイルスの感染が拡がり、非常事態宣言が出されている現在はとてもそれは不可能だ。もし、今審議するとしたら、そうした議論なしにならざるをえない。農家抜きで勝手に農家がそれがなければ農業できない種と苗の法律を変えてしまうということになる。

 これはまったく民主的ではないし、許されるべきものではない。さらに日本が批准している食料・農業植物遺伝資源条約の第9条では種苗などの植物遺伝資源の利用に関する国内の意志決定に参加する権利を農民は持ち、政府はそれを保障しなければならないと規定している。もし、農民の参加なしに種苗法を審議するとしたら、この国際条約違反となる。

 日本農業新聞は自民党が種苗法改定案に対してQ&Aを作成したと4月6日に報道した。種苗法改定については農家の権利を侵害されることなどないので、安心してもらうために作成したとしている。しかし、自民党はそのQ&Aを国会議員やマスメディアに配布し、この法案を今月中に成立させる意向であるという。スピード審議のための資料だという。そもそも、農家の参加のない審議は無効だが、果たしてこのQ&Aの説明が適切であるか、チェックしてみたい。

 このQ&Aは種苗法改定と種子法廃止問題の2つが別に説明されている。まず前者から。

令和2年3月
種苗法改正案と主要農作物種子法廃止に関するQ&A
政  務  調  査  会
農林・食料戦略調査会
農  林  部  会

 今通常国会に「種苗法の一部を改正する法律案」が提出されましたが、生産現場の一部からは“自家増殖が一律禁止になるのではないか”、“外国資本に種子が独占されるのではないか”といった声が聞かれます。また、2年前に廃止した主要農作物種子法の廃止と混同するようなご意見も聞かれます。
 でも、全くそういうことはありませんのでご安心して下さい。以下、Q&Aを通じて、皆様の疑問に答えます。

 残念だけれども、疑念はさらに大きくなる内容といわざるをえない。

1 種苗法改正関係

問1 廃止された種子法と種苗法の違いは何ですか?

  1. 「主要農作物種子法(以下「種子法」、平成30年に廃止)」と「種苗法」は、対象も目的も異なります。
  2. 対象は、種子法は稲、麦類、大豆のみでした。種苗法は稲、麦類、大豆に加え、野菜や果樹などのすべての植物です。
  3. 目的は、種子法は都道府県による種子の増殖でした。種苗法は新たに開発された品種の知的財産権を守ることです。

 単純な事実確認だけなので、コメントなし。

問2 自家増殖は一律禁止になりますか?

  1. 法改正により自家増殖が許諾(禁止ではない)を受けて行うこととするのは、都道府県の試験場などが時間と費用をかけて開発した登録品種のみです。
  2. それ以外の品種は、従来と同様に自由に自家増殖が可能です。
※「自家増殖」とは、農業を営まれる方が収穫物の一部を次期作の種苗に用いることをいいます。
※「許諾」とは、品種を開発・登録して品種の権利を持つ者から、自家増殖を含め、品種の利用の了解を得る、ということです。
※「それ以外の品種」とは、在来種、品種登録されたことがない品種、品種登録機関が切れた品種です。これらのシェアは例えばコメ84%、みかん98%、ぶどう91%、野菜91%となっています。

 今回、提案されている種苗法改定法案では登録品種は一律許諾制ということになる。種苗法が扱うのは登録品種だけなので、当然ながら今回の改定は登録品種以外は直接関わることではない。問いが、一律禁止=許諾制なのか、という問いなのに、それに種苗法以外のことで答えている。これはQ&Aではなくて問題をそらしているだけである。

 そして、都道府県の試験場のみが言及され、今回、本来の法改定の眼目であったはずの民間種苗企業のことには言及しないのはとてもおかしい。これまで政府は自家増殖を禁止しないと民間の種苗企業が新品種育成する意欲を失ってしまうとしてその禁止を進める姿勢を取ってきた。なぜ、このQ&Aではそれが言及されないのか、はっきりと今回の改定の大きな動機となってきたのだから、それをしっかり記すべきだろう。

 特に野菜の種子に関してはほとんどが民間の種子となっている。野菜はF1品種となる場合が多く、品種登録しなくても自家採種には適さない(F1から採種したF2世代の種子はばらつきが出てしまい、使いにくい)ため、F1品種であれば農家は確実に買ってくれるので、種苗会社も品種登録を省くことが多い。現状では野菜農家は種苗法改定の影響を概して受けにくいとは言えるだろう。しかし、農水省はF1品種の野菜も品種登録に向け動いている。今後はどう変わるかわからない。
 一方、お米や大豆などではF1はほとんど存在しない。イチゴやサトウキビ、イモなどでは今も登録品種の自家増殖が広くされている。作物の種類によってはこの自民党の上げる数字以上に農家の経営に大きな問題が起こりうる。

問3 自家増殖が許諾制になると、生産コストや事務負担の増加につながるのではない
ですか?

  1. 法改正により、自家増殖に許諾が必要になれば、一部の登録品種では、許諾料が発生することも想定されます。
    許諾料については、例えば稲の10aの栽培で3円程、ブドウの苗木で1本で60円程度という例があります。
  2. また、農業者に過度な負担が発生しないように、団体等がまとめて許諾を受けることができるようにします。また、その事務負担が課題にならないように配慮します。

 自家増殖を許諾制にすれば農家の負担は確実に増えることは争えないこと。でも、それは大した負担にならない、という答えになっているが、果たしてそれは妥当だろうか?

 まず、この事例で掲げられている金額は都道府県が行う公的種苗事業における場合の許諾料である。都道府県の事業なので、高額な許諾料が求められることなどない、と農水省は言っている。

 しかし、種子法とほぼ同時に成立した農業競争力強化支援法では第8条4項でこのように規定されている。

「種子その他の種苗について、民間事業者が行う技術開発及び新品種の育成その他の種苗の生産及び供給を促進するとともに、独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること」

 種子法廃止された2017年の11月15日には農水省次官は以下のような通知を出している。
「都道府県は…民間事業者による稲、麦類及び大豆の種子生産への参入が進むまでの間、種子の増殖に必要な栽培技術等の種子の生産に係る知見を維持し、それを民間事業者に対して提供する役割を担う」

 つまり、今の政策では、これまで国の農研機構や都道府県が育成してきた種苗は民間企業に移行させることを前提にあると考えざるをえない。民間企業に移った場合に、同じ低額の許諾料で済むと保障することはできないだろう。それは民間企業の裁量に委ねるのではないだろうか? もし、許諾料の上限が定められているのであれば安心できるかもしれない。しかし、改定案を見る限り、それは見当たらない。

 これでは信じて、といっても信じられるものではないだろう。10年したら大幅に値上がりしていた、ということになっていく。気がついたらその時遅しになるだろう。

 また、許諾の手数が大きな負担にならないように団体を通じてまとめて、とあるが、ここで想定されているのは農協のことだろう。農協に所属していない農家の場合はどうするのだろうか? そして農協の場合でも、その手間は決して無視できない負担となり、結果としてそれは所属する農家の負担となっていくことになるだろう。

 ここでは書かれていないが、種苗会社の方の負担にもなる可能性も高い。大きな種苗会社であれば別かもしれないが、許諾業務を行うのは特定の時期に限られ、そのためだけに人を増やすこともできず、結果的に種苗会社にとっても大きな負担になりかねない。

 また負担を抑えるために簡略化した場合、実際に誰がどこで自家増殖しているかということを把握するというそもそもの立法の目的が果たせなくなる可能性もある。実際に、立法の根拠が明確になるような運用にはならないのではないだろうか?

 日本政府は自家増殖許諾制は世界の流れだというが、EUや米国ですらも、小麦などその国にとって重要な作物はその対象から外している。ところが今回の日本の種苗法は主食である稲や主食に近い大豆や麦類含めて例外が規定されていない。EUでは小規模農家(穀類92トン、いも185トン以下の農家)は許諾料支払いが免除されるが、そのような規定は今回の種苗法改定には存在しない。もし、このままの形で承認されてしまえば、世界で類のない種苗法となってしまう。

問4 種苗法を改正しても海外への持ち出しは止められないのではないですか?

  1. 法改正により、育成者権者が定める条件に反して海外へ種苗を持ち出す場合は、流通の差止損害賠償請求、また、刑事罰の対象となります。
  2. また、育成者権者が自家増殖を把握できるようになるので、自家増殖からの流出を防げます。
  3. あわせて、海外流出したものについては、海外で差止や損害賠償請求ができるように、海外での品種登録を進めています。(品種登録に必要な費用を国が補助)

 「日本の優良な品種が中国や韓国などに流出し、それが日本の農業に大きな損失を与えている」とセンセーショナルに報道されている。。

 たとえば農水省も頻繁に例として出すシャインマスカットの例がある。農研機構が育成した品種だが、この品種が中国に持ち出され、日本や世界に向けて栽培・販売され、大きな損失を日本の農業に与えている、という。

 こう書かれると、中国人が日本の優良な種苗を盗んだ、という話に聞こえる。でも、実際に誰が何をやったのか、何が問題だったのかをしっかり見る必要がある。

 まず、実際にシャインマスカットを最初に中国に持ち出したのは日本の輸入業者だったと考えられる。日本で生産するよりも中国で生産して日本に輸入した方が儲けになるからやったのだろう。しかし、その場合でも農研機構が中国で品種登録を進めていれば対応は発覚した時点でその業者を止められたはずだ。でも農研機構は登録を中国では行わなかった。

 日本の輸入業者がその種苗を手にいれさえすれば持ち出すことはいくらでも可能であり、それをすべて農家の責任であるかのように言って、農家の自家増殖を禁止するというのは論理の飛躍ではないだろうか?

 確かに農家が購入した種苗の苗をオーストラリア人の農家が日本に来た時にプレゼントして、その農家がオーストラリアでその苗を栽培して、日本に逆輸出する意欲があることがインターネットで話題になって種苗法違反に問われたことがおきたことがある(和解で解決)が、これは現行種苗法でも違反行為であり、法改定の必然がない。

 実際に農水省食料産業局知的財産課の2017年11月1日付けの文書では「この事態への対策としては、種苗などの国外への持ち出しを物理的に防止することが困難である以上、海外において品種登録(育成者権の取得)を行うことが唯一の対策となっています」と述べている。国内での自家増殖の可不可に関わらず、それは可能であり、そのために種苗法改定は必要ない。

問5 もしも、外資系企業に、農業者が今まで使っていた品種を登録されてしまった場合、農業者は高い許諾料を払うことになりませんか?

  1. 在来種(伝統品種)はもちろん、一年以上流通している品種品種登録できませんので、ご安心下さい
  2. そのため、これらの品種について農業者が新たに許諾を受ける必要も、許諾料を払う必要もありません

 農水省は在来種は種苗法の対象とならず、品種登録は流通実績のない新しい品種に限られているから、それが登録されることはなく、在来種を使っている限り、その自家増殖権は守られるとしている。
 しかし、日本には在来種を規定した法律は存在しない。一方、登録品種は種苗法によって守られる。今回、種苗法が改定されると、特性表によって規定される形質を持つ種苗は登録品種であるとみなされる。一方、在来種の特性などはどこにも記録されていないから、もし、在来種が特性表で一致してしまった場合、これは登録品種として扱われてしまうことになる。
 もし、在来種が確実に守れるというのであれば在来種を登録する別な法律が必要となるだろう(在来種保全法など)。方や種苗法に守られた登録品種と法には守られていない在来種の間で裁判などが起こされれば、後者が不利になることは誰の目にも明らかである。

 そして、この在来種は今、急速に失われつつある。失われた遺伝資源はもう戻ってくることはなくなる。数十年前までは日本には数千の在来種の稲があったと言われるが、今ではその品種は急速になくなりつつある。なぜなら、そうしたお米の種採りには公的支援もなく、農家のボランティアに頼っているからだ。その農家が高齢化などで引退する時に、その種苗を継ぐ人がいなければその品種はこの世から消えるのだ。こちらの保護こそ喫緊の課題と言えるだろう。

 種苗法改定の前に在来種保全・活用法を作る必要がある。在来種と登録品種との間でバランスが取れるからそれで問題ないと農水省は言うが、それを言うためには、こうした法制度を整えた上で、その運用が確実に行われることが前提となるはずだ。それがない以上は安心などまったくできない。

問6 今後、都道府県は許諾料の範囲でしか品種開発が出来なくなるのではないですか?

  1. 都道府県は、現在も許諾料だけでなく、国からの補助金や独自の農業予算をあてて、品種開発を行っています。
  2. 法改正後もそのような状況は何ら変わりません。
    国からの補助金や、現在の研究開発に交付税措置を継続するため、都道府県はそれぞれの戦略の下で、必要な品種開発を行うことになります。

 これは種子法廃止とも関連するが、現在の政策は農業競争力強化支援法を下に公的種苗事業を民間企業に委ねる方向であり、実際に地方自治体による種苗事業の後退も実際に自治体によっては生まれており、今後も懸念がある状況の中で、どのように公的種苗事業を守るのか、その根拠を示す必要があるが、ここには何も示されていない。
 地方自治体や農研機構の種苗事業は国からの投資がもっとも重要であり、その長期的、安定的な供給を保障する制度が必要となるが、それを根拠付ける法律は現在存在していない。

 後半の種子法廃止に関するQ&Aについてはまた別途まとめる。
種苗法改定案に関する自民党Q&Aを検討する その2

(1) 種苗法に関する記事一覧

“種苗法改定案に関する自民党Q&Aを検証する” への3件の返信

  1. 農業と関わったことのない私には理解するのが難しい問題なのですが、何とか勉強を続けてまわりに発信していきたいと思っています。よろしくお願いします。

  2. 兼業農家に育った者です。
    安倍政権は特定秘密保護法を強行採決し、国民の見てないところで好き勝手する集団であると確信しています。これからも出来る範囲で発信していくつもりでいます。福島さん含め社民党の方々を応援しています。これからもよろしくお願いします。

  3. 農薬に除草剤に遺伝子組み替えやゲノム編集など、多種多様アレルギー持ちで、健康被害が心配で、自家栽培や自家採取の農産物を食べれないとなると、非常に困ります。
    国内自給率も日本は40%を割りました。
    いまはコロナ、また夏から秋にかけての豪雨災害や異常気象や地震など災害で食料難になる危険性もあります。
    種苗も無農薬の安全な農産物を自分で作り自分で供給する権利は剥奪しないでください。

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