RCEPと多国籍企業による種子・命の支配

 ひじょうに危惧していたRCEPの年内成立がインド政府およびアジアの農民をはじめとする人びとの反対の前になくなった(1)。ぎりぎり助かった、というところだろう。

 RCEPに関して日本ではTPPと比べて警戒感が弱い、というかほとんどないのではないだろうか? でもRCEPはTPPと同様、あるいはそれ以上に影響力を持ちうる。なぜならRCEPはまず世界の人口の半分が加盟する巨大な自由貿易地域を作りだそうとするものであり、さらにRCEPの中ではTPP11でも採用が見送られたTRIPSプラスの採用が見込まれている。
 TRIPSプラスはWTOで成立した知的所有権の協定であるTRIPSよりもさらに踏み込んだ知的所有権を認めて、企業を有利にしようとするもの。具体的には工業製品だけでなく、動物や植物、微生物などの生命についても特定の企業に特許を認める。工業製品を独占するように家畜や農作物、つまり食を独占することができてしまう。知的所有権を持つ極少数の企業が世界の食を独占するために、このRCEPは大きな基盤になってしまいかねない。

 生命への特許は製薬産業や遺伝子組み換え企業が強固にロビー活動を通じて世界の政府に認めさせることを求めてきたものだ。しかし、インドは生命への特許を認めない。インドは2001年に「種苗保護および農民権利法」を作り、登録品種を含む自家採種、交換する権利を農民に認めている。RCEPの成立によって、この農民権利法が無効にされることが懸念されていた(2)。

 インドでは種子企業がモンサントによって買収され、遺伝子組み換えコットン(Btコットン)が押しつけられた。種子価格は導入時には安かったがすぐにつり上げられ、債務で自殺を余儀なくされる農民が続出し、大問題となり、政府は種子価格の統制を決めた。これができたのも農民権利法があったからだと言えるだろう。

 インドはRCEPを離脱することを表明とのことで、これでRCEPによってインドの農民の権利が奪われる脅威はまずは避けられることになることは大きな勝利だろう。しかし、逆に農民の権利を認める国がRCEPから離脱したことで残された国にとっては、どう農民の権利を守るのかより大変になった面もある。
 種子は買うのが当たり前と思われているかもしれないが、そうした産業的な種子による食料生産はこの地球の4分の1しか達していない。農民の持つ種子が世界の食料の4分の3を供給している。重要なのはむしろ農民の種子。しかし、強い政治力を持つのはこうした産業的種子のほとんどを握る遺伝子組み換え企業であり、そうした企業は自由貿易協定、経済連携などを活用して、農民の種子の権利を奪い、産業的種子を押しつける体制へと変えようとしてきている。種子を独占されれば、命そのものの支配につながる。基本的な人権が奪われてしまいかねない、大問題である。

 RCEPの動向に注意!

(1) 朝日新聞:RCEP、インドが撤退表明 15カ国で発足めざす

Civil society group welcomes failure to sign RCEP; calls it ‘bad deal for democracy’

(2) India must reform its seed sector before RCEP takes effect

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