「グリホサートは安全」の虚構

 欧州司法裁判所で10月1日に農薬の今後を決めるとても重要な裁定がなされた。
 農薬は単独の有効成分だけではなく、その売られている状態における安全性が審査されなければならず、しかも急性毒性だけでなく、慢性毒性と発ガン性試験を行わなければならない、という内容(1)。

 これは実に画期的な判断であり、もしこれが実行されれば巨大な変化を引き起こすだろう。なぜかというと、現在は農薬承認は純粋な有効成分のみの検討で問題なければOKとされるのだが、純粋な有効成分だけでは問題を引き起こさず、その後、添加物が加えられることで、問題が出てくることが多いからだ。実際に売られる形態で検査したら、その安全審査は覆るケースが続出するだろう。

 奇妙なことに聞こえるかもしれないが、純粋なグリホサートは草を枯らせることすらほとんどできない。グリホサートは水溶性なので、脂質に覆われている細胞に入っていくことができない。だから効果を発揮できない。動物の細胞にも入っていかないから影響がほとんど出ない、だから安全、という結論にされる。それでは本当に安全か?
 実際に売られているラウンドアップを含むグリホサート系農薬にはこの脂質をくぐり抜けるための界面活性剤が添加されている。だから植物の細胞に入り、草を枯らすことができる。それを食べた動物や人間の細胞にも入っていき、さまざまな問題を引き起こすことになると考えられる。だから、売られた状態で検査すれば、承認結果は覆る可能性が高くなる。実際にカーン大学の有名な実験で使われたのは純粋なグリホサートではなく、ラウンドアップそのものだった。

 政府の安全審査は純粋なグリホサートのみで試験されるので、危険性をないものとして承認してしまう。そんな「安全なグリホサート」は実験室の中だけの話であり、現実の世界におけるグリホサートはそうした界面活性剤といっしょになることで、その本来の凶暴性を露わにすると考えられる。


添付した写真はScience Directから(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S221475001730149X)左から2番目が純粋なグリホサート(一番左は対照実験用)。ほとんど枯れていない。一方、3番目、4番目、5番目が添加剤入りのグリホサート3種をかけたもの。こちらは植物が枯れている。一番右のものは添加剤だけ。添加剤がもっとも有毒だと言われる所以が一目瞭然。世界に撒かれるのは右側だ。

 そして、これまで安全審査は急性毒性の値のみに固執してきた。急性毒性のある農薬だけが禁止され、それに対して、グリホサートは急性毒性は低いとして、世界的に推奨されてきていた。しかし、問題なのは急性毒性だけではない。腸内細菌を損ない、糖尿病やアレルギー、認知神経症、ガンなどを発症させるには時間がかかる。これらは急性毒性には表れない。植物を含むわれわれの命がこうした微生物との共生環境に依っている以上、この関係を破壊するグリホサートが世界中で大量に散布されることにより人間の健康にとどまらず、生態系全体に巨大な影響を与えかねない状況が生まれている。これまでの安全審査ではこうした作用は一切無視されてきた。

 もし、この基準が徹底されるのであれば複数の農薬が混合される場合にどんな危険が生じるかも問題にされざるをえないだろう。現在ではそれぞれの成分は個々に安全と判定されれば、混合した時にどんな問題が起きるかについて実験して検証する義務がない。混合して問題ないと申請者が言えばそれでOKだったが、今後はこれも問題になっていくだろう。
 現在、効果の落ちたラウンドアップにジカンバやベトナム戦争の枯れ葉剤の主成分の1つ、2,4-Dを混合した農薬も南北米大陸では使用が急増し、被害が広まり大問題になりつつあるが、その危険性もこれまでは見逃されてきた。

 日本政府は2023年にグリホサートなどの農薬の安全審査を見直すことになっているが、これまで通り、有効成分だけの審査で済ますのであれば日本ではEUが危険として禁止する農薬を安全として承認することになってしまうのではないか?

 この欧州司法裁判所の判断が世界標準になれば、現在、販売されている多くの農薬がアウトになるだろう。それだけにこの判断をどう活用できるか、大きな課題になってきそうだ。

 欧州司法裁判所の判断を歓迎したいけれども、一方でグリホサートのこれまでのEUの承認判断は問題ないという判断も下しているようで(2)、諸手を挙げて喜ぶ気分にはなれそうにないが、それでも今回の判断は今後の世界の方向を変える大きな意義を持っていると言えるだろう。

(1) Pesticide formulations as sold and used must be tested for long-term toxicity and carcinogenicity

(2) EU court rules that agrochemical approval system is valid

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