NHKのゲノム編集特集番組について

 NHKクローズアップ現代がゲノム編集の特集。ゲノム編集食品の受け付け・流通開始が来週火曜日に迫る中、最低限の役割は果たしてくれたように思う。消費者の代表として日本消費者連盟の纐纈さんがゲストとして招かれていたこと、米国でも民間の遺伝子組み換え認証であるNon-GMOプロジェクトなどゲノム編集反対の見解を取材していたことは高く評価できる。

 でも、番組の内容にいくつかミスリードといわざるをえないNHKによる断定(これが当たり前の標準になりつつあるけど)がいくつもあったように思う。簡単に書いておきたい(ざっと見た印象なので正確な引用ではないが、ご容赦)。

「ゲノム編集は科学的に検出できない」
 報道で繰り返されるのはゲノム編集は自然界の突然変異と同じなので、識別が科学的に不可能だという表現。しかし、実際にそれは正しくない。
 現在の遺伝子組み換えだとリトマス試験紙のようなもので特定の遺伝子組み換えであるかどうかの簡易なチェックが可能だ(厳密な方法もある)が、そのような簡便な方法でゲノム編集であるかの判別方法がないというだけで、検査すればやはり、ゲノム編集の痕跡は見つけられるので判別は可能であるという(1)。ゲノム編集があたかも自然界の突然変異と同じであるかのような神話を作り出す表現で許容できない。

「ゲノム編集は検出できないから食品表示義務が課せない」
 この類の言説は以前から繰り返し使われている。たとえば醤油や油やお酢などの原料が遺伝子組み換えであるかどうか検出できないから日本政府は表示義務課せないとしている。それならばどうして遺伝子組み換えで醤油を作る企業が日本では表示しないのにヨーロッパに輸出する時には遺伝子組み換えとしっかり表示するのだろう?
 ヨーロッパでは遺伝子組み換え原料を使った油などは表示義務がある。そういう制度があれば企業は表示する。日本で表示できないのは科学的にできないのではなくて、やる意志がないからに過ぎない。あたかも科学に基づいてやっていますといいたげだがまったく非科学的である。

「ゲノム編集は自然の突然変異と同じ」
 品種改良で放射線照射されたものがある。酒米の美山錦がそうだ。このような品種改良についても異論はあるだろう。放射線照射はランダムに遺伝子を傷めるので、その中で有用な変異を探し出して、新品種を作り出すのは気が遠くなるほどの作業で、放射線照射の危険に見合うものになるのだろうか、疑問だが、自然界にも放射線があり、その放射線に対して生命は遺伝子を守る機構を発達させてきているので、それを強めた放射線照射による品種改良はその延長線上にあると言えなくもない(賛同はしないが)。
 でもゲノム編集はそのような自然界の変異とは異なるメカニズムを使っており、自然界の変異と同一視するのはあまりに乱暴過ぎる。あきらかに人為的な操作による副作用もいくつも挙げられている(以下参照)。それを押し隠す表現だ。

「ゲノム編集はオフターゲットの危険がある」
「ゲノム編集は遺伝子を挿入しない」
 確かにゲノム編集にはオフターゲット(意図しない遺伝子を操作してしまう)の危険があるけれども、これしか言わないのでは問題。今、注目されているのはオンターゲットの、つまり狙い通りの遺伝子を操作した場合に生じる問題。
 だいたい「ゲノム編集」という言葉自身が誤解を作り出していると思うのだけど、「編集」といえば切ったら貼るところまでやって初めて編集と言いうるだろう。だけどゲノム編集はそうではない。狙っている遺伝子とおぼしきものを探し出し、その遺伝子を破壊する。やるのはここまで。後はどうなるかは天に任せている。そこに予定していない変異が生まれる可能性も十分想定できる。その破壊するメカニズムは細菌がウイルスを撃退する時に使うものなので、ハサミのようなやわなものじゃない。ハサミの譬えは不正確で手榴弾でその遺伝子を壊すと言った方がいいという研究者もいる。
 そして、ゲノム編集では細菌由来のRNA、抗生物質耐性遺伝子、ウイルスの遺伝子などを挿入しており、それが消えるという保証はない。
 だからオフターゲットをなくしてもゲノム編集の危険はなくならない。
 それにも関わらず、詳細な実験すら求めず、事前相談・報告書の提出だけでOK、いやそれすら義務でもない、という。

 さらに言えば、1つの遺伝子は多様な機能を果たしていると考えられるが、それらはまだ十分解明されていない。その時にその遺伝子を破壊してしまうことは、その生命体の生存を危険にさらす。収穫の多いゲノム編集作物は成長を抑制する遺伝子を破壊してしまう。成長をコントロールできなくなった生命体はもろくなる。

 果たして何のための新品種開発なのか、問われるべきだろう。
 今、2050年には100万種以上の生物が絶滅する大絶滅期に向かっているという警告が鳴っている。土壌の9割はダメージを受けていると予測されている。そして気候崩壊。それをもたらした大きな原因に化学的農業、工業的農業がある。生態系を傷つける農業によって人類は生存の危機に曝されようとしている。このゲノム編集作物とはこうした農業モデルの存続のために使われようとしている。
 ゲノム編集技術は研究室の中で遺伝子の機能を調べるためには有効なものかもしれない。しかし、それを安直な利益産出の手段にするために環境中に放出して世界を危険にさらすことは許されない。

 生態系という土台を見失った技術は崩壊するしかない。それでも、その崩壊する技術をさらに推進するのか、それとも生態系を生かす方向に科学・技術・農業・社会を変えていくのか、今、それが問われている。本当に将来の世代から未来を奪うのか、われわれ自身の行動が問われている。

 本日、院内集会、厚労省包囲行動(2)。

(1) ゲノム編集食品は科学的に識別可能
(2) ゲノム編集に関する院内集会と厚労省包囲行動

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