迫る種苗法改悪。農水省の検討会

 種子法が廃止されて1年数ヶ月が経とうとしている。日本政府は種子法廃止にも飽き足らず、もう1つの種子に関する法律である種苗法の改悪に向けた作業を進めている。すでに農水省は省令によって種苗法の実質的運用を変えた。しかし、自民党はそれでは十分ではないとして、種苗法を20年ぶりに改訂する必要を昨年から指摘し始めた。それが今後出てくることがほぼ確実である。

 日本政府は知財立国を掲げ、イノベーション統合戦略を打ち出した。つまり、市場が小さくなる日本市場ではなく、世界に日本の種子を売ることでその知的所有権で儲けようという政策だ。でも、それは極少数の企業の利益の代わりに多くの農民の利益を損なうことにつながるだろう。

 昨日、農水省の第4回優良品種の持続的な利用を可能とする植物新品種の保護に関する検討会が開かれたので、傍聴してきた。日本の種苗業界をめぐる現実と、日本政府が掲げる知財立国路線との齟齬があちこちで露呈したと思う。
 従来の種苗法では種苗の育成を行った人(企業)の育成者権と種苗を使う立場の生産者の権利(自家増殖権)のバランスが重視されてきた。それを今度の改悪では前者だけを強く押し出し、自家増殖原則禁止(ただし対象は登録品種のみ)にすることがうたわれている。

 実際に日本の種苗会社が直面しているのは、農業生産者の高齢化と生産の縮小、さらには種苗育成できる人材の不足であるが、そちらの方の対策は日本政府の施策ではほぼ無視され、知的所有権の厳格適用が打ち出されている。
 それに対して、日本の種苗会社では、いわゆる知的所有権を確保するために登録している品種はとても少ない。品種登録することのメリットがあまりない。それよりも、どうやって農業の担い手を増やして、その種苗を作る作り手と使い手を確保するのか、それが最大の課題であろう。
 それにも関わらず、日本政府は声高に「品種の海外流出の防止」を叫び、それを口実にどんどん企業に品種登録させて、特許を取らせて、違反事案を明確にしていけば日本の農業は栄えるのだというほとんど現実を見据えていない一手しか出していない。検討会では企業が儲かることが日本の農業が栄えることだ、などという横暴な言い方もされていて唖然とした。
 実際に地域の種苗開発する担い手が確保できない現状がある。地域の種苗企業の圧倒的なコストは人件費であり、どう人材を確保できるか、そして国内でその種苗がしっかりと売れて、その中から次の世代の種苗の担い手も確保できる循環を作る必要がある。それこそが優良品種の持続的利用を可能とする道だろうが、そのような方向性は語られていない。敵は隣国でそれを抑えつければ日本の農業は栄えるんだ、と言っているようなものだけど、本当にそうなのだろうか? 地域における農業実践という広い海があって、地域の種苗会社が生まれてくる。その海が枯渇するような政策を進めれば地域の種苗会社も行き詰まる。それでも利益を得られるのはモンサント(バイエル)や住友化学のような多国籍企業だけだろう。

 そもそも特許は工業製品を前提に作られた制度である。種子などの生命に特許を認めることにこそ無理がある。たとえば、キノコで特許を取ったとしても、その特許を取った企業はその現物を特許管理当局に提出しても、その現物は年月が経てばなくなってしまう。特許侵害しているかどうか、そのキノコの特性を農水省の作る特性表で比較したとしても、完全に侵害を証明することは難しい。ならばDNAを解析してDNAで登録すればいい、という提案があがる。しかし、遺伝される形質はDNAだけではない。特定のストレスをかけることで出現する形質はDNAの変化を伴わないエビジェネティックな仕組みで遺伝する場合もある。そのような仕組みで新しい品種の形質が作られている場合はその方法では特定できない。さらに、DNAが一致しなくても同じ形質が現れる場合は現在でも同じ品種とされる。DNAでは必ずしも決まらない。
 要は生命に特許をかけようとすること自身が矛盾した行為であり、インドでは種子に特許をかけることは禁止されている。そして、EUでも生命への特許に反対する運動が強まり始めている。でも、検討会の中は特許や知的所有権を強化する方向に疑問ははさまれなかった。生命を発明したわけでもないのに生命の発明者としての特権=特許を認めることが果たして妥当か、検討すべきだろう。

 何より、種子を使う立場の当事者がこの検討会では不在だ。前回の検討会では有機農業の種子の育成を手がける団体からのヒアリングがあったものの、検討会の委員の構成の中に、種苗を使う立場の農家、あるいは家庭菜園で使う立場の当事者の人が見えない。だから種苗の知的所有権の強化という一方的な議論になっていたとしても、緊張感もなく、対立も明らかにならない。
 今後、種苗法改訂に向けた法的な枠組みを作る作業を事務局や弁護士の委員を中心に少人数でやるという話になったと思うのだが、その作業はたぶん公開されないのだろう。そして、後日、その案の検討会が開かれるとしても、検討会としてのお墨付きがつけられ国会上程となるのだろう。果たして検討会ではどのような結論になるのだろうか? せめて、結論を出す前に全国の種苗を使う立場の生産者、家庭菜園などを実践する当事者が声を出す機会を設けるべきだと思う。それもさまざまな多様な声を出す機会を保障すべきだ。単なるアリバイ作りで呼ぶのではなく、最初からやり直す覚悟でその声に耳を傾けるべきだろう。

 次の国会で種苗法改悪案が上程されてしまう危険はきわめて高い。それは種苗のさらなる独占をもたらし、農業、さらには社会の持続性をも危険にさらすことになりかねない。
 この動きにどう対抗するか、考えたい。

昨日の「第4回優良品種の持続的な利用を可能とする植物新品種の保護に関する検討会」に関する農水省のお知らせページ
http://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/chizai/190726.html

第1回から3回までの資料は以下から見ることができます。
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/tizai/brand/kentoukai/kentoukai-top.html

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