政府を呑み込むゲノム編集、遺伝子組み換え企業

農水省のゲノム編集に関するパブリックコメントの件、大きな勘違いをしていた。農水省の骨子は僕が考えていたよりもずっとひどいものだったということになる。

 2月に農水省がゲノム編集の栽培に手順を示したページを公開した時に、電話して質問した時には担当者はゲノム編集作物を栽培したい時は届け出すれば可能と言っていたので、それを真に受けてしまって今まで誤解してしまっていた。現在の遺伝子組み換えの場合は栽培したい人は都道府県に申請する必要があるけれども、ゲノム編集はそれを申請ではなく、届け出でいいことにした、のだと理解していた。
 でも、届け出しなければならないのは農家ではなく、ゲノム編集生命体を作った企業(あるいは代理の輸入業者)だけ。農家が栽培する時には届け出しなくていい。開発企業が農水省に新品種を作る時に相談、届け出すれば、後は企業が自由に種子を売ることができる。
 これでは農家はタネがゲノム編集されているかどうかもわからないものを買わされることになりかねないのではないだろうか? タネがゲノム編集であっても表示されなければ、調べない限りわからないかもしれない(農水省担当部局に質問。末尾に追記)。

 そうなればどこで誰が何を植えているかは政府にはまったくわからず、実態を知っているのは遺伝子組み換え企業だけ。彼らはライセンス契約を農家と結ぶだろうから、農家がどの土地に何を植えるかまでつかめる。その情報の開示を市民が求めても応じない可能性が高い。政府機関は蚊帳の外ですべてを仕切るのは遺伝子組み換え企業。ちょっと恐ろしい世界になるのでは?

 農水省はゲノム編集で問題が起きないかモニターすることを約束しているが、こんな仕組みでどうやってモニターするというのか?
 まさにとなりの畑でゲノム編集が知らない間に植えられているかもしれないという事態になりかねない。

 従来の遺伝子組み換え作物であれば遺伝子組み換え企業が農水省・環境省、厚労省・食品安全委員会に申請を行い、承認案が作られ、パブリックコメント後に承認となる。栽培申請の方は、栽培実験の申請と商業栽培の申請2段階あるので、実際に承認されるまで長い年月待つ必要があった。これが相談だけで済むことになる。すさまじいスピードアップ。実際にはトウモロコシなど米国産の遺伝子組み換えの一部は日本での栽培実験を省略することが増えているので、プロセスは半分以下(日本で実験栽培する必要がなくなるので大幅に時短)だが、それでも申請から審査、検討、パブコメと1品種の承認にかなり長い時間がかかっていた。
 しかし、ゲノム編集の場合は、操作の際に入れた細菌由来の遺伝子やウイルス、抗生物質耐性遺伝子などが残っていないかを企業側がチェックして、残っていないことを農水省に報告すれば、それでOK。企業が自分で報告するだけで、農水省の側がすることはない。だから都合の悪いデータはもちろん、出てこない。そのゲノム編集作物がどんな形で生態系に影響を及ぼすか、健康に影響を及ぼすかについては検討するプロセスは一切存在しない。これで次から次へとゲノム編集作物を世に出せることになる。これまでと違って、市民が声を上げることができる場面は消える。

 パブリックコメントでは農水省に寄せられた情報に対して、「農林水産省は、提供された情報(公表された場合に特定の者に不当な利益又は不利益をもたらすおそれのある情報を除く。)を、ウェブサイトに公表する」とある。
 不利益をもたらさないように公開されないのは栽培する農家の個人情報かと思っていたのだけど、そうではなくて、その企業の企業秘密、知的所有権に深く関わる情報は載せない、ということだろう。現在でも企業が提出する遺伝子組み換え作物の申請資料で、その企業が指定した部分は黒塗りで公開されている。

 誰がどこで植えたかもわからなくなる。情報は遺伝子組み換え企業に独占される。そのプランを農水省自身が提案する。ここに恐ろしさを感じる。
 今の農水省は冬虫夏草に取り憑かれた虫のように思えてきた。冬虫夏草は虫に感染して、虫の筋肉を自由に操るようになる。虫は自分の意志では動くことができなくなり、感染した菌がその虫の体内で胞子を作っている期間、うろうろ歩き回るが、最後にはその冬虫夏草の胞子をばらまくのに適した草木の高いところに登らされて、その草木にしっかりと顎で自分の体を固定させて、その虫は死に至る。そして、その虫の体内でできた胞子が虫の体を突き破ってばらまかれるのだけど、まさに今の農水省には冬虫夏草が取り憑いているような状況としか言い得ないのではないだろうか?
 国が安全性や企業をコントロールすることを放棄し、企業がしやすいように国が自ら提案する。問題起きても無力だろう。国の権力がなくなる、というよりも、市民の権利が無視される、市民の権利がなくなるということだ。多国籍企業に対するコントロールがなくなり、市民は企業への隷属を余儀なくされる。新自由主義を生み出したシカゴ学派の世界がまさに日本に出現する。唖然とするしかない。国の承認なしにミニ原発作ってもいいって感じと言ったら言いすぎか? 国はそれがどこにあるかもわからない。そうなって本当にいいのか?

農水省のパブコメは29日締め切り。ぜひ、あなたの声を!
すでに出してしまった人も追加で出せます。匿名も可。もう一度出すこともできます。

追記:実際にゲノム編集した種子にゲノム編集の有無は表示するのか否か、パブリックコメント担当の農水省消費・安全局農産安全管理課組換え体企画班に質問してみた。しかし、表示するかしないかはうちの管轄でないので答えられない、懸念があるならばパブリックコメントに書いてほしいとのことだった。懸念があるどころじゃなくて、表示しないで種子が出回るのは大問題だろう、という話だと思うのだけど、このままでは種子にゲノム編集は表示されない可能性がきわめて高いと考えざるをえない。その1点でもいいので、ぜひ声を出してください。以下のページからできます。
「農林水産分野におけるゲノム編集技術の利用により得られた生物の情報提供等に関する具体的な手続について(骨子)(案)」についての意見・情報の募集について

報告者について説明した農水省の資料
ゲノム編集技術で得られた農林水産物を対象とした生物多様性の観点からの情報提供

その他、農水省が行った「ゲノム編集技術を利用して得られた食品等に関する意見交換会」に関する資料

農水省のパブコメ以外に食品としての厚労省のパブコメがあり、それが今日26日締め切りです。
「ゲノム編集技術応用食品等の食品衛生上の取扱要領(案)」及び「届出に係る留意事項(案)」に係る御意見の募集について

参考:農水省が2月8日公開したゲノム編集作物栽培の手続きのページに関して質問してみた。
Facebookでの投稿

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です