チリでのTPP・モンサント法案との闘い

チリ下院がTPP11参加を承認、しかし、市民はこれを憲法違反として訴訟へ。

 4月22日、チリ下院は賛成77、反対68でTPP11参加を承認。この後、上院での審議になるが、上院は下院以上に保守的であり、チリのTPP11参加がほぼ確定的となったとみざるをえないのだろう。(1)

 これまでチリではメキシコや日本と異なって、全社会的な反対運動が組まれて、国会内部でも何度もTPP11参加を止めてきた。(2)

 TPPによって医療、教育、農業と食、保険、福祉など人びとの生活に関わる本来、営利企業からは守られるべき領域が多国籍企業の利潤のターゲットになってしまう。TPPは種子を人びとから奪う「モンサント法」を強制するとして、特にチリでは先住民族や農民から強い反対が表明されてきた。
 チリではこれまでTPPに並行して、農民の種子を奪い、多国籍企業の種子を毎回買うことを実質的に強制する「モンサント法案」が登場してきた。しかし、先住民族、農民たちを先頭とした強い反対運動、遺伝子組み換えに反対する運動の力も加わり、2014年3月、この法案は廃案となった。しかし、TPP11参加国はUPOV条約の批准が義務付けられており、TPP11批准すれば、再び「モンサント法案」が出てくることは必至だろう。(3)

 チリの社会運動団体は国会の決定が憲法違反であるとして、訴訟に踏み出した。(4)

 UPOV条約とは「植物の新品種に関する国際条約」。多国籍企業が種子を知的所有権(育成者権)で囲い込むために作らせた国際条約と言えるだろう。世界の農民の大多数は今なお、自分たちでタネを持っている。それを無理矢理、自由貿易協定を使ってタネを奪い、企業の種子を買わせる体制に変えようというわけだ。

 現在アフリカでも多くの国の農民がタネを奪われようとしている。自由貿易協定によってUPOV条約が強制されるからだ。もっともUPOV条約には第15条に育成者権の例外という規定があり、締約国は合理的な範囲で育成者権を制限できる、とある。
 日本はUPOV条約を1998年にすでに批准してしまっているけれども、これまでこの例外規定を生かして、自家採種する権利と種子を育成した企業(個人)の育成者権とを両立させようとしてきた。でも種子法廃止が決まった2017年以降、急激にこのバランスを農水省の省令で変え始めている。そして参議院選挙以降はさらに種苗法改悪法案を出してくるという観測もある。

 つまり、まったく対岸の火事でなく、今後、われわれの食を直撃する問題でもある。世界で有機農業、アグロエコロジーが急速に拡がり、種子の権利も急速に注目されはじめている。農家の種採りを支援する条例などを制定する地方自治体も増えてきた。一方、モンサント(バイエル)などはそのビジネスモデルへの批判が止まらず、窮地に追い込まれている。しかし、こうした自由貿易協定などで、強引に農民の種子の権利を奪われてしまえば、窮地に陥っている多国籍企業は息を吹き返すだろう。
 国際的な連帯で人びとの権利を多国籍企業の利権に優越させる動きを作り出していかない限り、私たちの未来は多国籍企業につぶされてしまう。地域のタネを守る運動を国際連帯につなげていくことが必要。

(1) Lo que nos queda de la lucha contra el TPP11 en Chile

(2) この間、FacebookでチリでのTPP反対運動の勝利について書いてきた投稿(日本語)
2019年3月15日
2019年3月23日

(3) TPPがモンサント法として批判されている。
Chile. Diversas organizaciones de La Araucanía rechazan la aprobación del TPP en la cámara de diputados

(4) Organizaciones sociales presentan recurso contra el TPP-11: “Ya no hay autoridad que nos represente”

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