自ら批准した国際条約を踏みにじる日本政府

 国連人権理事会で「小農と農村で働く人びとの権利に関する権利宣言(以下、小農の権利宣言)」が成立に向け動いている。4月9日から13日まで作業部会が開かれ、日本政府の代表は農民の種子の権利に反対を再び表明し、権利宣言に冷や水をかける発言を12日に行った。
 ほんの1分ちょっとなので、日本政府の姿勢をここからだけ読み取るのは難しい。そこで昨年9月に行われた日本政府の代表のポジションの要点を見ておく。

■日本政府はこの小農の権利宣言に対するポジションを保留する。国際社会に人権として認識されるにいたっていない未成熟の権利を含めるのは適切ではない。新しい人権宣言を作るよりも、既存のメカニズムを利用すべきだ。そして、種子の権利は既存の国際条約と両立しないので、それを含むことに反対する■

 そして、今回の日本政府の発言。その中で世界銀行の統計を紹介している。「日本は94%が都市に住んでいる。世界全体では54%」しかし、それで何を言いたいのだろう、聞きたかったが何もない。最後にこの権利宣言には種子の権利など人権としては広く認識されていないものが含まれている、と言って発言を閉じている。

 短い発言の中でどちらも種子の権利を認めることには反対であることを表明している。それでは日本政府が言う農民の種子の権利と両立しない国際条約とは何なのか? それはUPOV条約やWTOのTRIPS協定くらいのものだろう。どちらも多国籍企業の主張が入れられたものだが、果たしてそれは世界で広く認識されたものだろうか? UPOV条約の署名国は56カ国に過ぎない(地域機関が加盟している国を含めると数はもう少しあるが)。とても世界の多くの国に賛同を得られている見解ではない。
 その反対に「食料・農業遺伝資源条約」の方は144カ国(地域含む)が署名している。世界の大半が賛同している条約だが、この条約はまさに農家の種子の権利をはっきりと明記している。その第9条「農民の権利」の内容を思いっきり意訳して要約すると、こうなる。

「過去も未来も種子の保存・開発で大きな貢献しているのは農民であることを認識する。 締約国政府は農民の種子の権利を保護する責任があり、そのために以下の措置をとるべきである。
(1) 種子に関する伝統的知識の保護
(2) 種子の利用から生じる利益配分
(3) 種子に関する政策決定に参加する権利」

 144カ国(機関)が賛同している遺伝資源条約でしっかり定義されている種子の権利が世界で広く認められていないというのは明かな事実認識の誤りと言わざるをえない。そして日本政府自身この国際条約を2013年に批准している。この条文を見れば、種子法廃止を一方的に決めたことはこの種子に関する政策決定に参加する農民の権利を侵害したことであり、明白な国際条約違反であると言える。

 この作業部会の中心テーマは「collective rights」について、つまりグループ、コミュニティ、農民としての権利についての議論だった。米国政府は強行に反対。つまり米国政府にとっては個人としての権利だけがすべて。グループとしての権利は既存の法律に反すると。そんなことはない。女性の権利だって、LGBTの権利だってあるし、先住民族の権利だってある。それを否定したら、現在の世界は成り立たない。そうした抑圧されたグループなんてどうでもいい。強い個人が生き残ればいい、という率直な世界観を米国代表は語っていて、ある意味、壮観だ。ひでぇヤツ、とヒールを演じてくれている。
 そして個人(企業)の権利である知的所有権を侵害することを許さない。技術移転にも反対。その権利は独占する。企業の権利は守るが、農民の種子の権利も生物多様性の権利も伝統的な農法の権利も認めない。そんな米国政府の横暴な発言に、日本政府の発言は乗っている。グループとしての権利を話しているのに、日本代表は個人の権利にしか言及していない。そして残念ながら、それを裏付ける世界観も何もない。世銀の統計を引用した意味はまったく不明のままだった。

 なぜこのような発言を日本政府を代表して行うことができるのだろうか? 日本政府はどうして自ら批准した国際条約も踏まえない姿勢を取ることができるのか? 国会でぜひ追及していただきたいものだ。

作業部会・UN WebTV
「日本代表」は1時間6分17秒、「米国代表」は36分30秒ほどから

昨年9月の日本政府代表の作業部会での行動

「国連 小農と農村で働く人びとの権利に関する宣言ドラフト」の全訳

舩田クラーセンさやかさんのブログ【続報】国連「小農の権利宣言」議論で、日本政府代表が「たねの権利」を認めないと発言。国連議場で繰り広げられた国際バトルと対米追従

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